映画のくれた時間

約1500本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます(たまにアニメ・ドラマ・小説も)。面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

漫画『ダーウィン事変』ネタバレなしの感想。人間とチンパンジーから生まれた少年・チャーリーを描く

■評価:★★★★☆4

 

「人とは何か。命とは何か」



【漫画】ダーウィン事変のレビュー、批評、評価

 

ユートピアズ』『えれほん』『パンティストッキングのような空の下』のうめざわ しゅんによる月刊アフタヌーン連載中のコメディ社会派漫画。

 

人間とチンパンジーから生まれた少年・チャーリーだが、人間の両親のもとで育てられ、「優れた頭脳と身体能力の持ち主」に成長した。高校に入学したチャーリーは、人から「陰キャ(ナード)」と揶揄されるが頭脳明晰な少女・ルーシーと出会い、友情を育んでいった。しかし動物解放を求めてテロ活動を繰り返している“ALA”(動物解放同盟)が、チャーリーを仲間に加え、テロに引っ張り出そうと画策し、過激な手段に出る。それにより町の人々は、チャーリーとその家族に対する態度を変えていく。

 

最近、一番ハマっているTV番組といっても過言ではない『マンガ沼』という番組がある。
お笑い芸人コンビ『麒麟』の川島と、同じく『かまいたち』の山内がマンガにまつわるトークをする番組である。
メインの企画は、マンガ好きの二人によるおすすめの漫画紹介。
他にもマンガ家を招いて事前に回答してもらったアンケートを元に、話を展開させていくコーナーもある。
(時にはアンケートのみの出演も)

ダーウィン事変』は2021年の7月頃の放送の『マンガ沼』で取り上げられていた。
今回、2022年10月に同番組にて、作者がアンケートのみの出演で、再び、本作について語られていたので興味を持って読んだ。

結論としてはムチャクチャ面白い。
なぜもっと早く読まなかったのか後悔する内容だった。
コメディタッチな作風だが哲学的だなあ、といった印象。

設定から面白くて、舞台はアメリカ。
とある科学研究所の実験で、チンパンジーが人の子を孕んだ。
チンパンジーと人間のハイブリッド、通称「ヒューマンジー」のチャーリーが本作の主人公。

ヒューマンジーとは、良くもまあぶっ飛んだ設定を思いついたものである。
いかにも漫画的な斜め上を行くような発想が面白い。

本作はこのチャーリーのキャラクターが非常に魅力的。
人とは異なる容姿を持つチャーリーは、思考回路も人らしさに欠け、独特の価値観や倫理観を持つ生き物である。
チャーリーの特殊な感性から【人とは何か。命とは何か】を問うのがメイン・テーマとなっている。

『マンガ沼』でも作者本人のうめざわしゅんから言及されているが、本作は、同著者の短編集『えれほん』に収録された『もう人間』を発展させた内容になっている。
『もう人間』の舞台は近未来。
中絶手術が禁止された日本では、臍帯を切断してしまうと、子供が死んでしまう奇病が流行っていた。
当然、中絶はできないので、母子は臍帯に繋がれた状態で生活を強いられるのだ。
描かれるテーマは「命とは何か」。
100ページにも満たない中編だが、読み応えが凄い。
というか哲学感が全開で、個人的にはかなり好みだった。



作者は『えれほん』のテーマをもっと掘り下げたいと思い、『ダーウィン事変』の執筆に至ったそう。

ダーウィン事変』も命がテーマなだけ、哲学的なセリフの応酬のてんこ盛り。
コメディ・マンガではあるけれど、時には重苦しく、読んでいて目眩がする。
ついつい、自分自身の価値観を改めて考えてしまう箇所も多い。

不満点でもないが、『ダーウィン事変』を読もうとなったきっかけは、『マンガ沼』の作者によるアンケートで「どのシーンが一番のお気に入りですか」といった問いに対して、作者はこう答えた。
「4巻の最後のシーンです。このシーンを描きたくて、本作を書き出したようなものです」と。
具体的な内容はネタバレになるので番組内では明かされなかった。

だが、私はすぐに分かってしまった。
答え合わせ的な感覚で本作を読んだ。
結果は、私の思った通りだった。
作者が描きたかったそのシーンは、あまり斬新な展開ではなかったのが少し残念だった。
もう少し、展開に捻りが聞いていたら、もっと良かった。

とはいえ、重厚なテーマに、チャーリーというポップなキャラはコントラストが面白い。

 

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タコピーの原罪

 

 

ダーウィン事変の作品情報

■著者:うめざわしゅん
Wikipediaダーウィン事変
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