映画のくれた時間

約1500本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます(たまにアニメ・ドラマ・小説も)。面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

小説『仮想儀礼』ネタバレなしの感想。1からカルト宗教団体を作り金儲けを目論む失業者の男2人組を描く

■評価:★★★☆☆3

 

「宗教団体を作る」



【小説】仮想儀礼のレビュー、批評、評価

 

ゴサインタン』『女たちのジハード』『スターバト・マーテル』『インドクリスタル』『鏡の背面』の篠田節子著、2008年12月刊行のエンタメ小説。

 

【あらすじ】ゲーム作家に憧れて職を失なった正彦は、桐生慧海と名乗って、同じく失業者の矢口と共に金儲け目当ての教団「聖泉真法会」を創設する。悩める女たちの避難場所に過ぎなかった集まりは、インターネットを背景に勢力を拡大するが、営利や売名目的の人間たちの介入によって、巨額の金銭授受、仏像や不動産をめぐる詐欺、信者の暴力事件、そして殺人など続発するトラブルに翻弄される。

 

ざっくりとしたあらすじは、1からカルト宗教団体を作り、金儲けを目論む失業者の男2人組を描く。
非常に魅力的なプロットで、似たような流れの小説はいくつか存在する。
二千人の教徒を有する宗教法人に成長したカルト宗教の教祖を描く新堂冬樹の『カリスマ』。
触れたものの記憶を読み取れるサイコメトリー能力を持つ女子大生が悩める人を救おうと会を設立する貫井徳郎夜想
大手証券会社勤務からホームレスに転落した男が心機一転して宗教団体を作る荻原浩の『砂の王国』。

宗教設立系の小説は今まで未読だったので、上下間の大長編ではあったが、思い切って本作『仮想儀礼』を手に取ってみた。
読んでみて思ったのが、異様なまでの生々しさである。

宗教を立ち上げたとはいえ、いきなりお祈りする場所を借りるのはハードルが高い。
とのことで、まずはインターネット上でホームページを作成する。
集まってきた人々は、教祖に様々な相談事をメールで訊ねてくる。
いよいよ相談メールも増えてきたとなり、礼拝所となる宗教施設を構えようとマンションの一室を手に入れる。

いざ施設を構えるとなると、実に様々な悩みを抱えている人間たちがやってくる。
シンプルに学校生活などで生きづらさを覚えている学生らもいれば、父親から性的なDVを受けてい若い女性、旦那や子供と折り合いのつかない家庭不和の主婦など深刻な悩みを持つ人間も多い。
教祖役でわずかな宗教知識のある正彦とコミュ力だけは誰にも負けない矢口は、少しずつ信者を確保していく。
じりじりと規模が大きくなっていく様は、現実的で世界に入り込んでしまう。

ただ、緻密に作り込んでいるからだろうか、かなり冗長な印象も受けた。

上巻の終盤あたりまで、大きな展開は迎えない。
ただただマンションの1階に設けた宗教施設を訪れる人々の悩みを聞いたり、あるいはちょっとしたトラブルに翻弄されたりと、描かれるエピソードが地味。
ダイナミックな事件が起きるわけではないので、かなり読み進めるのに時間がかかった。

チベット仏教をベースにしていて、理論武装は凄い。
正彦は「自分は詐欺師だ。仏教についての知識は拙い」などと卑下したりする。
にしても宗教に無知の一般人からしたら圧倒されるし、信者を納得させるのに十分な知識を豊富に持っている。
相当、作者は資料を読み込んで勉強したんだろうなと推測させられる。
実際に、下巻の巻末に羅列する資料本の数は凄い。
10~20冊はあったと思う。

上巻の終盤にかけて、物語がいよいよ派手に動き始める。
教団の今までの揺るやかな拡張とは比べものにならないくらい、大組織になるとあるきっかけが起きる。
この出来事もなかなかリアリティがあって面白かった。
恐らく、こういう出来事って現実でもあるんだろうなと思う。

人はピンチに陥っているときに、再起を図れるきっかけとなる助言を与えてくれた人を神格化してもおかしくない。
人って脆いし、ピンチに陥っているときは、神に縋りたくなるくらいメンタルは脆くなるものだから。

上巻はほぼほぼフリのみ。
面白くなるのは下巻から。
しかも本当の意味で物語りが動き出すのは、下巻の400ページくらい。

上下間で1200ページあるので、なかなか長い物語だった。
面白い作品ではあるけど、あまりに物語が動かないので、読書初心者はまず心が折れると思う。

もう少し、こまめに色んな事件を起こして、起伏を与えて欲しかった。
とはいえ、どのキャラも個性はあるし、エピソードの一つ一つは生々しくて読みごたえはあり。

 

■登場人物一覧
桐生慧海(えかい)=鈴木正彦:本総務部、システム管理課長
矢口誠:失業者で、女性の扱いが上手い
サヤカ:品川のホテルに済む元愛人
竹内由宇太:オカルト好きの男子高校生
真実:金髪少女
山本広江:人間性おばさん
雅子:元つくし会、大物代議士の娘、父と兄に性的虐待を受ける女
板倉木綿子(ゆうこ):元つくし会の主婦、清楚なおばさん
島森麻子:大教団の元信者

 


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■ビリーバーズ

movies-ocean.hatenadiary.com

 

仮想儀礼の作品情報

■著者:篠田節子
Wikipedia篠田節子
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