映画『ちょっと思い出しただけ』ネタバレなしの感想。6年間の恋愛模様を1日で描く

■評価：★★☆☆☆2

「6年間の恋愛模様を1日で描く」

【映画】ちょっと思い出しただけのレビュー、批評、評価

『アフロ田中』『私たちのハァハァ』『ワンダフルワールドエンド』『アズミ・ハルコは行方不明』『くれなずめ』の松居大悟監督による2022年公開のドラマ映画。

2021年7月26日に34回目の誕生日を迎えた男。ステージの照明の仕事をしている彼は、いつものように仕事に向かう。一方、元恋人の女はタクシー運転手をしており、客を降ろした先に彼の姿を見つける。2人は、各年の7月26日を遡りながら、共に過ごした6年間を思い出していく。

映画ファンから、やたらと評価されている印象の映画。
内容が地味そうだったので鑑賞を先延ばしにしていたが、思い切ってＧＥＯのレンタル・セールのタイミングで手に取ってみた。

別れてしまった男女が日常のでの生活の最中、たまたま見掛けてしまう。
共に過ごした過去を、二人は各々の視点で回想で描く内容となっている。

本作を鑑賞した第一印象は、物語の起伏に乏しく、地味であるということ。
また、内容に新鮮さが感じられない。

そもそもダブル主人公の二人がキャラクターとして、魅力的な特徴が一切ない。
男は夢に破れ、新しい道を見つけた３４歳。
一方でタクシー運転手をする女性。
これ以外の特徴がない周りにもいそうな普通のキャラクター。
タクシー運転手をする女性キャラ自体は若干の鮮度はある。
だが、それ以外に目を惹く性格・行動・癖がない。

そんな平凡な彼らのかつての恋愛模様を描いているだけである。
普通のキャラの普通の恋愛を描いて何が面白いというのだろうか。

映画や小説、ドラマなどは、観客が共感するようなキャラクターを作るのは大事かもしれない。
だが、共感するってだけで物語に価値は生まれるだろうか？

私は物語には、共感を越えた感情移入を大事にしてもらいたいと思う。
例えば貧乏でどうしようもない家族が、富豪の家を乗っ取ろうとする『パラサイト半地下の家族』は最高のキャラクター設定である。
貧乏で苦しい生活を送る家族には共感するが、まさか家を乗っ取るという、ぶっ飛んだ行動にでる。
犯罪まがいな行為には共感できない。
出来ることなら真っ当な方法で幸せになってほしい。

だが、想像を超える解決策を実行するから、観客はワクワクしながら鑑賞できる。
それに、理解もできる。
非合法な手段を使わないと、彼らは人並みの生活を送れないところまで追い詰められているから。
たっぷりと感情移入してしまい、彼らが何とか幸せになってほしいと願いながら鑑賞してしまった。

『ちょっと思い出しただけ』に話を戻すが、キャラクターに魅力が感じられないので、仄かに描かれる成長も何も心に響かなかった。

記事を書くに当たって調べていたら、クリープハイプの尾崎世界観が『ナイト・オン・ザ・プラネット』という映画が好きで、インスパイアされて作った曲があるそう。
その曲に、松居大悟が心を動かされ、本作の脚本を執筆に至っている。

そもそも着想元となる『ナイト・オン・ザ・プラネット』は、ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキを舞台に、タクシードライバーと乗客の人間模様を描くストーリー。

私はこの映画を鑑賞していない。
だが、あらすじを見ただけで、この映画を評価する人の理由は何となくイメージがつく。
それは、各キャラクターの持つ悩み・葛藤を通して、各々の土地や国民性の違いの面白さを描いているのではないだろうか。

例えば、ロサンゼルスでは、映画のキャスティング・ディレクターである女性がタクシーに乗り込む物語。
ハリウッドのあるロサンゼルスは夢追い人で溢れ返っている。
例えば、『ラ・ラ・ランド』『マルホランド・ドライブ』など、ハリウッドスターに憧れるキャラが主人公の映画は多く制作されている。
主人公の職業は、土地柄が現れた設定である。

一方で、パリ編のコートジボワール移民のタクシー運転手が主人公。
パリといえば一見華やかなファッションの街の印象が強い。
実際はアフリカ系の黒人移民が多く住み、何ならスラム街まで存在する。
パリの裏側については『アテナ』や『レ・ミゼラブル (2019年)』などで描かれる。

『ナイト・オン・ザ・プラネット』の本質を『ちょっと思い出しただけ』は描けていないので、本作を製作に至った意義があまり感じられない。

男女関係が面白く描かれる作品のおすすめはコチラ。

■ビリーバーズ

movies-ocean.hatenadiary.com

■砂の女

movies-ocean.hatenadiary.com