映画のくれた時間

約1500本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます(たまにアニメ・ドラマ・小説も)。面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

映画『死刑にいたる病』ネタバレなしの感想。稀代の連続殺人鬼から依頼を受ける大学生を描く

■評価:★★★☆☆3.5 

 

サイコパスは面白い」



【映画】死刑にいたる病のレビュー、批評、評価

 

『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』『彼女がその名を知らない鳥たち』『止められるか、俺たちを』『孤狼の血』シリーズの白石和彌監督による2022年公開のサスペンス映画。
原作は、櫛木理宇による同名タイトルの小説。

 


稀代の連続殺人鬼である榛村大和から手紙を受け取った大学生の筧井雅也。そこには「罪は認める。しかし最後の1件だけは冤罪だ。最後の1件を誰が行ったかを調べてほしい」と認められていた。中学生の頃、近所でパン屋を営んでいた榛村に恩を感じていた雅也は手紙の内容を理解して、独自の調査を始めることになる

 


白石和彌監督といえば、多くの犯罪映画を手がけ、すでに実力も証明されている素晴らしい人物。
『日本で一番悪い奴ら』や『孤狼の血』シリーズなど、とてつもなく面白い作品を作ってくれているので、本作『死刑にいたる病』も何の心配もなく、鑑賞した。

期待通りの面白い作品だった。
とにかく、阿部サダヲに扮する榛村大和(はいむら やまと)のキャラクターが素晴らしい。
榛村は、救いようのないサイコパスである。
普段は、パン屋兼カフェを営む優しい店主。
店には普通のお客さんだけではなく、テスト勉強などに奮闘する学生たちも多く利用している。
将来有望な若者たちには、パンやドリンクをサービスしたりと気前の良く、コミュ力の高い人物。
学生たちからも好かれていて、良い関係を築いている。

だが、榛村には裏の顔がある。
17歳、18歳の未来のある知的な学生を見掛けると、どうしようもないほどに命を奪いたい衝動に駆られる。
誘拐するのだが、ただ、毒牙を向けるだけではない。
爪を一枚一枚剥ぎ、目を潰し、など、決まった一連の工程の拷問を行い、苦しみを与える事に喜びを得る癖を持っている。

榛村自身は見た目には清潔感がある。
時にはコムデギャルソンやヨウジヤマモトのような短丈のジャケットにワイドパンツなど、モード系のようなお洒落な服に身を包むこともある。
言葉の選択も知性を感じさせ、ムダがない。
神経質そうな雰囲気で、品があり、明確な拘りを持って仕事に取りかかる一貫性のあるキャラクター。

そんな榛村を演じた阿部サダヲの演技が素晴らしい。
過剰に演じることはなく、落ち着いた表情がやけに恐怖を煽る。
目の下に陰が入るようにメイクもやり過ぎ感はなく、闇深そうな雰囲気があって良かった。

物語の冒頭では、すでに、榛村は逮捕され収監されている。
そのため、大学生の雅也は獄中の榛村と面会をし、1件のえん罪の証明をしてほしいとの依頼を受けるのだ。

ここまで読んで勘の良い映画ファンはすぐ気付くだろう。
榛村大和のモデルは、紛れもなく、『羊たちの沈黙』のレクター博士である。
羊たちの沈黙』は、人の肉を食って逮捕されたサイコパスの精神医師レクター博士に、現在発生している人の皮を剥ぐ事件の指南をもらうためため、FBI捜査官のクラリスという女性が会いに行く物語。
レクター博士も、絵画などのアートを好み、自身の牢屋の壁に飾るなど、高尚な趣味を持っている。
食事の際のナイフやフォークの使い方も丁寧で、言葉遣いや所作にも品がある。
外見のみでは、人として信頼に足る人物である。

さらに、筧井雅也は、定期的に榛村に捜査の途中経過を報告する。
すると、「良くここまで分かったね。凄いよ、まさやくん」と褒めたりする。
まるで師弟関係のような上下関係が生まれているのだ。
このシチュエーションと構図はまさに『羊たちの沈黙』のレクター博士クラリスの関係性である。

私は『羊たちの沈黙』が大好きなので、ついつい本作の物語の進展には食い入るように見入ってしまった。
もちろん、『羊たちの沈黙』とは全く異なる展開を見せてくれる。
シナリオまで同じ筋道を辿っていたら興ざめするが、上手く過去の名作をトレースしている印象を受けた。

あと、榛村がなぜ、命を奪うようになったのかを描かれていないのが良い。
動機を描かれると変に感情移入して一気に恐さが半減する気がする。
榛村大和は恐いだけの存在で良い。

気になる点が2つ。
1点目は、主人公が小声すぎて何を言っているのか分からない。
映画館なら良いのだが、自宅だと、もごもごしていて意味不明である。
中盤以降は字幕を出して鑑賞していた。

もう一つは最後の意味が良くわからない。
そもそも本作はテーマが不明瞭だった。
本作を通じて、何を伝えたかったのだろうか。
作者が描きたかった主題をもう少し分かりやすく提示してくれて良かったなあと思う。

キャラクターやストーリー自体は面白いので、人間が恐い系のスリラーが好きな人には勧めたい。
しっかし白石和彌は本当にハズレが少ないので素晴らしい監督だと思う。

 

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■パーフェクト・ケア

movies-ocean.hatenadiary.com

死刑にいたる病の作品情報

■監督:白石和彌
■出演者:阿部サダヲ
岡田健史
岩田剛典
宮崎優
鈴木卓爾
佐藤玲
赤ペン瀧川
大下ヒロト
吉澤健
音尾琢真
中山美穂
Wikipedia死刑にいたる病

死刑にいたる病を見れる配信サイト

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