映画のくれた時間

約1500本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます(たまにアニメ・ドラマ・小説も)。面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

★新作映画『すずめの戸締まり』ネタバレなしの感想。全国の災いの原因となる“扉”を閉じていく少女の解放と成長を描く

■評価:★★★★☆4

 

「3・11」



【映画】すずめの戸締まりのレビュー、批評、評価

 

ほしのこえ』『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』『君の名は。』『天気の子』の新海誠監督による2022年公開のアニメ映画。

 

 

九州の静かな町で暮らす17歳の女子高校生の岩戸 鈴芽(いわと すずめ)。彼女はある日の登校中に扉を探している青年・宗像 草太(むなかた そうた)に出会う。彼の後を追って山中の廃墟で見つけたのはある一つの扉だった。なにかに引き寄せられるように、すずめは扉に手を伸ばす。そこにあったのは広い草原と全ての時間が混ざりあった空があった。その後二人の前に人間の言葉を話す謎の白い猫、ダイジンが現れ「お前は、邪魔」と話した瞬間、草太は鈴芽がまだ幼い頃に使っていた椅子に姿を変えられたのだった。やがて、日本各地の「災いの扉(後ろ戸)」が開き始める。

 


映画ファンなら、新海誠監督作品の新作は観ないわけにはいかない、ってことで鑑賞しに行った。

個人的に新海誠作品で、最も好きなタイトルは『君の名は。』。
体が入れ替わることで会うことのできない少年少女が、手を取り合って1つの困難に向けて戦う、といった分かりやすい展開の青春セカイ系映画。
映像は綺麗だし、ストーリーも後半に向かうにつれてダイナミックさが増すし、クライマックスも綺麗な着地を見せてくれる。
映像と見事にシンクロさせてくる音楽も最高。
エンタメとして最高峰に君臨する作品の1つであると、個人的には思っている。

対して次作の『天気の子』は非常に微妙な作品だった。
ベースとなるシナリオの展開が『君の名は。』と何ら変わりない。
そのため、新作映画を観ている感覚になれず、劇場で鑑賞しながらもまったく乗れなかった。
「巨大スクリーンで、一体、何を見させられているんだ」と心の中で嘆いてしまった作品はなかなか珍しい。
相変わらずの美麗な映像と、RADWIMPSの曲は良かったが。

なので、私としては『すずめの戸締まり』は、異なるアプローチを見せて欲しいと期待して鑑賞した。
結果、前2作とは異なるテーマを扱っていて満足度は高かった。
君の名は。』『天気の子』のシンプルな青春セカイ系映画とは異なり、本作はロードムービー仕立てになっているのは新鮮だった。

主人公は女子高生のすずめ。
何もない田舎町に住んでいるすずめだが、自分のちょっとしたミスで巨大地震を発生させる災い元である扉を開けてしまう。
そのせいで、全国にある扉が次々と開かれてしまう。
色々あって、椅子に変化させられてしまった扉を閉める閉じ師のイケメン・宗像草太の代わりに、すずめが開いた扉を閉じる旅に出る。

本作が前作と最も異なるのが、「3・11」というとてつもなく繊細なテーマを真っ正面に扱っている。
そのため、後半はとても静止するのが難しいくらいに辛い描写が巨大スクリーンに映し出される。
私はとても耐えられず、涙をぼろぼろと零してしまった。
というか、このシーンを見て感極まらない人なんているのだろうか。
震災をダイレクトに経験している北陸の人は、確実に本作を避けたほうが良い。
そのくらい生々しい描写である。

だが、「3・11」という巨大災害の深刻さを風化させない、という役割としては良いと思う。
結局、原発事故も巨大津波を想定していなかった甘さが、大災害へと発展している。
未然に防ぐためにも、こういった映画による警鐘効果は期待しても良いと、個人的には思っている。

他にも良い箇所がたくさんあった。
君の名は。』以降に見られるちょっとしたコメディ演出も良かった。
個人的には、神戸で知り合った親子の子供たちとのやりとりが一番好き。
椅子になった草太が、ついつい子供の前で喋ってしまう。
好奇心旺盛な子供たちの興味が、一気に椅子に向くのは必然。
すずめは、誤魔化すために「これ、最新AIが搭載されているの!」と誤魔化す。
この後のやりとりも含め、とても微笑ましかった。
他のコメディシーンでも、劇場ではちらほらと笑い声が漏れていて、楽しく鑑賞させてくれた。

あと、『君の名は。』『天気の子』に続いて、やっぱり音楽も素晴らしい。
今回は、イントロが民謡のような曲調の曲がメインテーマの1つになっていて、めっちゃツボだった。
曲のタイトルは「すずめ feat.十明」。
イギリスの民謡である「Scarborough Fairh」の切ない旋律を彷彿とさせ、近いうちにサントラを購入してリピートしまくりたい。
両方とも、YOUTUBEのリンクを貼っておくので、拝聴してもらいたい。


「すずめ feat.十明」

www.youtube.com

 

「Scarborough Fairh」

www.youtube.com


いまいちだった箇所は、扱うモチーフが前2作と被るのは気になる。
たとえば、神話をモチーフにした災害設定で、解説を老人にやらせる展開も同じ。
作家性が枯渇しているように思えるので、次作では新しいアプローチをお願いしたい。

あとは、ダイジンという猫がやたらとお喋りなのが気になった。
ダイジンは本作の扉に最も関わりのある重要なポジションを担っている。
だからこそ、やたらぺらぺらと喋るのが、神々しさ・神秘さに欠ける。
喋らないか、もしくは良くわからない謎の言語を話すとかしてほしい。
あまりに喋りすぎて軽薄というか、あざといというか。
何なら、まどマギキュゥべえまんまである。

全体的には満足度は高い良作。
多くの人におすすめしたい。

 

 

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タコピーの原罪

 

movies-ocean.hatenadiary.com

 

 

すずめの戸締まりの作品情報

■監督:新海誠
■出演者:原菜乃華
松村北斗SixTONES
深津絵里
染谷将太
伊藤沙莉
花瀬琴音
花澤香菜
神木隆之介
松本白鸚
Wikipediaすずめの戸締まり

 

すずめの戸締まりを見れる配信サイト

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※2022年11月現在