映画のくれた時間

約1500本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます(たまにアニメ・ドラマ・小説も)。面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

映画『キングメーカー 大統領を作った男』ネタバレなしの感想。金大中とその選挙スタッフだった厳昌録の逸話を描く

■評価:★★★☆☆3.5 

 

「目的が手段を正当化する」



【映画】キングメーカー 大統領を作った男のレビュー、批評、評価

 

韓国制作の2022年公開のドラマ映画。

 

長きにわたる独裁政権の打倒を目指す政治家キム・ウンボムと、その理想に共鳴した影のブレーン、ソ・チャンデ。現職大統領率いる与党と比べてカネもなければ人脈もないウンボム陣営のために、チャンデは誰も思いつかなかった大胆な戦略に打って出る。それはネガティブキャンペーンから詐欺まがいの贈賄工作まで、勝つためにはどんな手段も辞さない汚いやり口。強大すぎる敵を倒すためには、毒をもって毒を制するしかない。チャンデの覚悟はある爆破事件を引き起こし、ウンボムとチャンデの共闘関係にも最大のピンチが訪れる…。

 


小説家の七尾与史さんがYOUTUBEでおすすめ映画として紹介していたので鑑賞した。

本作は韓国映画となる。
韓国は政治に関わる史実に基づいた映画の完成度が高い印象がある。
私は歴史には明るくはないのだが、理由として考えられるのが、国民が韓国政府に抑圧された過去があり、強い反発心を持って過ごした経験を持っているからだと思われる。
強い感情を持って制作されているので、結果として深みのある物語に仕上がっている。

例えば、1980年代の軍事独裁政権下の中で、民主化を訴えるデモを軍が制圧するシーンを描く『タクシー運転手 約束は海を越えて』。
同じく1980年代、学生運動家の青年が警察に拷問され命を奪われ、民主化抗争に至る姿を描いた『1987、ある闘いの真実』など。

あるいは、島国の日本と異なり、他国(韓国の場合は北朝鮮)と地続きで繋がっている立地条件も、他国との衝突を生むきっかけの1つになっているのだろう。
北朝鮮人と韓国人の交流を描く『JSA』は妙に記憶に残る作品だった。

話は『キングメーカー 大統領を作った男』に戻す。
第15代大統領(在任:1998年 - 2003年)となる金大中(キム・デジュン)と、彼の選挙スタッフで、参謀役として大きな力となった厳昌録(オム・チャンノク)をモデルとして、史実をベースとしたポリティカル・スリラー映画となっている。

史実の物語なのでネタバレもくそもないだろうが、本作の流れだけ簡単に説明しておく。
描かれるのは、金大中をモデルとするキム・ウンボムが選挙で連敗中の野党候補であるところから、大統領になるまでが描かれている。

金大中が選挙運動に奮闘していた60年代、韓国は独裁政権下にあった。
1960年4月には、「四月革命」という学生を中心とした民主化運動によって、第1-3代 大統領の李承晩政権が倒れている。
にも関わらず、翌61年には軍人の朴正煕による軍事クーデーターによって、再び、民主化は弾圧され、独裁政権は継続されている。

本作の主人公のモデルとなっている金大中は、民主化を推進しており、1997年12月18日に当選を果たしている。(本作で描かれるのはここまで)
調べてみると、実際に民主化が果たされたのは、少し前の1987年6月29日で、当時の民主化の確約は、六月民主抗争と呼ばれている。

本作の見所は、厳昌録をモデルとしたソ・チャンデのキャラクターである。
民主化という大いなる理想を掲げるキム・ウンボムに対して、ソ・チャンデは冷徹極まりない。
というのも、勝てば正義だよね、といった信念の持ち主。
そのため、勝つためには何でもする。

当時、与党は選挙に勝つために国民たちに金品を配り、わかりやすい賄賂で票を獲得していた。
ソ・チャンデは当然、見過ごさない。
反撃のため、与党陣営のふりをして配られた金品(劇中ではシャツや靴)を「すみません。間違って配っちまいました」といって回収する。
その後にソ・チャンデが所属するキム・ウンボム陣営の自党のマークを張り替え、再び金品を配りに回るのだ。
やってることがはちゃめちゃ過ぎて笑える。
まるで漫画のような出来事だが、1960年代に、韓国で実際に行った出来事である。
ソ・チャンデのいかれた戦略により、結果的にキム・ウンボムは当選を果たす。

やり口は汚いと思う。
でも、敵が賄賂といった汚い戦法で当選し続けているなら、真似ても問題ないだろう。
結果を出して当選しないと、主張は通らないのだから。

真面目で誠実なキム・ウンボムに対して、ソ・チャンデの発想がとにかくハチャメチャ。
そのため、ソ・チャンデは次にどんなユニークな仕掛けを施すのか、ワクワクしながら鑑賞した。
『実際に起きた話』という前提があるので、次にどんな展開を迎えるのかが気になる。

全体的にコメディ・タッチには描かれている。
だが、政治が題材の物語なので、どうしても堅さは否めない。
途中、現状がどうなっているのかわからなくなったので、映画を停止して、ウィキペディアのあらすじを見て理解し直し、本編に戻る、といったことをしていた。

韓国の史実に基づいた政治ドラマに関心がある人にはすすめられる内容だった。

 

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■誰も知らない

movies-ocean.hatenadiary.com

キングメーカー 大統領を作った男の作品情報

■監督:ビョン・ソンヒョン
■出演者:ソル・ギョング
イ・ソンギュン
ユ・ジェミョン
Wikipediaキングメーカー 大統領を作った男

 

キングメーカー 大統領を作った男を見れる配信サイト

U-NEXT:○(有料)
Hulu:○(有料)
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Netflix:-
※2023年3月現在