映画のくれた時間

約1500本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます(たまにアニメ・ドラマ・小説も)。面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

小説『砂の女』ネタバレなしの感想。海辺の砂丘に昆虫採集にやって来た男が女が一人住む砂穴の家に閉じ込められ、脱出を試みる

■評価:★★★★☆4

 

「砂の神秘や砂の魔力」



【小説】砂の女のレビュー、批評、評価

 

『壁』『第四間氷期』『砂の女』 『他人の顔』『燃えつきた地図』『友達』『箱男』『密会』『方舟さくら丸』の安部公房による1962年刊行の純文学小説。

 

昭和30年8月のある日、男は、休暇を利用して海岸に新種のハンミョウを採集するために砂丘の村に行った。そこで漁師らしい老人に、部落の中のある民家に滞在するように勧められた。その家には、寡婦が一人で住んでおり、砂掻きに追われていた。村の家は、一軒一軒砂丘に掘られた蟻地獄の巣にも似た穴の底にあり、縄梯子でのみ地上と出入りできるようになっていた。一夜明けると縄梯子が村人によって取り外され、男は穴の下に閉じ込められた。そのことを悟った男は動転するが、砂を掻かずに逆らうと水が配給されなくなるため、女との同居生活をせざるを得なくなった。

 

メタルギアソリッドシリーズ』、『ボクらの太陽』シリーズ、『DEATH STRANDING』のゲームデザイナー・小島秀夫の著書に『創作する遺伝子 僕が愛したMEMEたち 』がある。
小島秀夫が人生や創作に影響を与えた本や映画などを紹介する本。
砂の女』は本の中でおすすめされていたので、拝読するに至った。

1962年(昭和37年)に刊行されている古い作品。
2022年の今から60年前の作品になる。
世界的にも評価されていて、英語を始め二十言語で翻訳されて、世界中に販売されているとのこと。

読了した率直な意見として、評価された理由に概ね納得だった。
どこかジメジメとした日本らしいじめじめとした陰湿な雰囲気も印象的。

本作は、とにかく設定が素晴らしい。
教師の男が主人公で、休みの日に息抜きで昆虫採集に没頭する変わり者。
砂丘に生息する虫を探しにやってきて、一泊しようと近くの集落に出向いて宿を探す。
そしたら、穴の中にある三十前後のやたらと蠱惑的な女が一人で住む家を案内される。
翌日、穴を上り下りするはしごが外されており、集落ぐるみで穴の中の家に閉じ込められてしまうのだ。

舞台はリアリズムに溢れている。
だが、法や秩序が存在しない砂丘の村が独特な空気感を漂わせている。
ぶっ飛んだ世界観に、一瞬でハマってしまった。

メインキャラクターの一人である女も魅力的だった。
家に帰りたくても帰れない主人公の気持ちを無視して、女はいきなり脇腹をくすぐったりとイタズラを仕掛けてくる。
夜になると、砂避けに顔を布で覆い、真っ裸で睡眠を取る。
朝になると纏った砂が、女の体の曲線を強調するようにやけに色っぽい。

かといって、男がいらいらしたり、高圧的な態度を見せると、過剰に怯え、口をも閉ざしてしまう。
まるでヒットアンドアウェイを仕掛ける小悪魔である。
やっぱり妖艶な女性は魅力的だなあと感じさせてくれた。

昆虫採集が趣味の主人公なだけに対して、さながら女は蟻地獄。
物語の主な登場人物はこの2人のみ。
なのに、やたらと、先の展開が気になって、次々とページを捲ってしまった。

砂の魅力をテーマにしているのも面白い。
本作で出てくる砂はまるで生き物のようなキャラクター性がある。
読者は恐怖を覚えることもあれば、どこか魅惑的で惹かれる瞬間もある。
砂を描写一つでいろんな顔を見せてくれるのは、さすがは世界を代表する純文学作家の腕だと実感させられる。

安部公房は本作のようにワン・アイディアで物語を描くことが多いとのこと。
本作も、この設定のみで270ページを書ききっている。
ただ、さすがに冗長に感じる箇所もあった。

脱出しようと試みる流れが、本作のメインストーリー。
本筋を描いているときは面白い。
たまに、主人公が心の声で同僚の話を語り出したりしたりと、本筋から逸れたシークエンスが顔を出す。
個人的にはどうでも良く、あまり入り込めなかった。

とはいえ、全体的には面白い。
半世紀以上昔の純文学とは思えないほどに文章は平易で読みやすい。
ページ数も少ないし、シンプルなストーリー展開なので小説初心者でも楽しめる良作。

 

印象的な女性キャラが登場する作品のおすすめはこちら

ガンニバル

 

 

 

砂の女の作品情報

■著者:安部公房
Wikipedia砂の女(ネタバレあり)
Amazonこちら、映画版はこちら