■評価:★★★★☆4
「見返りを求める男と恩を仇で返す女」
【映画】神は見返りを求めるのレビュー、批評、評価
『さんかく』『純喫茶磯辺』『銀の匙 Silver Spoon』『ヒメアノ~ル』『愛しのアイリーン』『犬猿』『BLUE/ブルー』『空白』の吉田恵輔監督による2022年公開のコメディ映画。
イベント会社に勤める冴えない中年男・田母神(たぼがみ)は、飲み会でYouTuberのゆりちゃんと出会う。同情心から彼女のYouTubeチャンネルを手伝う。やがて彼女は、一躍人気YouTuberの仲間入りを果たす。
吉田恵輔といったら、人の不幸の面白さ(人の不幸は蜜の味)、不完全な人間の愛おしさを面白おかしく描くセンスが卓越した監督である。
例えば2018年公開の『犬猿』。
とある兄弟と姉妹を主人公とする。
姉妹が特に印象的で、印刷工場を経営するお姉ちゃんはふくよかで、見た目には気遣っていない非モテ感が溢れる。
だが、仕事はばりばりこなせる。
一方で、妹は容姿の良い愛嬌のある男ウケ全開の女性。
姉と同じ職場に務めているのだが、仕事はどこかいい加減。
ある日、姉は営業の男に恋をするのだが、その男は妹に気があり……。
といった具合の不穏な空気を漂わせるコメディ映画。
兄弟・姉妹ならではの哀愁や諍いを描いていて、個人的には無茶苦茶好きな作品。
直近の作品は2021年公開の『空白』だが、まったくもって私のツボにはまらなかった。
不運な出来事で娘を失ってしまった父親と、間接的な加害者となるスーパーの店長の衝突を描く。
シリアル一辺倒で笑いは一切ない。
良い映画を作ってやろう感がねっとりと漂うあざとい感動ポルノ映画。
心底、面白くなくて残念だった。
世間では評価されている一作だが、吉田恵輔に求める作風とは異なるので、私と似た感想を持った人もいるかと思う。
本作『神は見返りを求める』は、原点回帰の印象を受けた。
彼の真骨頂である人間の悲哀をユーモラスに見せてくれるので、凄く楽しかった。
そもそも配役が絶妙すぎる。
コンパで知り合った底辺YOUTUBERの編集や、小道具集めに奮闘し、見返りを求めずにお手伝いをするお人よしすぎていかにも損するタイプの中年男をムロツヨシが演じる。
幸薄い属性をムロツヨシに演じさせたら右に出る者はいない。
ムロツヨシを好きじゃない人も、本作を観てムロツヨシ好きになってもおかしくないほどに魅力が溢れている。
吉田恵輔作品の2016年公開の『ヒメアノ~ル』でもムロツヨシは出演していて、やっぱり不運で残念な男を演じていてハマり役だった。
だが、脇役に徹していたので、出演シーンはごくわずか。
『神は見返りを求める』では主演に格上げされている。
ムロツヨシを特盛りで堪能できる最高の映画である。
ヒロインの岸井ゆきのもハマり役すぎる。
何というか、人を不快にさせるような絶妙なルックスや抜けた言動がお見事すぎる。
いかにも底辺YOUTUBERのズレた感性というか、隙のある雰囲気も良い。
とある体当たりシーンも女優魂を感じさせてくれて良かった。
唐突にやってきたので電車の中で鑑賞していた私はとてもビックリし、周りの目が気になった。
詳細は伏せるので、ぜひとも見て貰いたい見所の一つ。
後半に向けて、どんどん可愛くなっていくのも、物語を盛り上げるスパイスにもなっている。
他に良かった箇所といったら、変化の描き方。
中盤辺りで、二人の心情や立場が大きな変化を遂げる。
まるで別人のように同じ人間とは思えないジャンプ力のある変貌を遂げるのがお見事すぎる。
普通、変化率が高すぎると「キャラ性に一貫性がないのでは?」と不自然さを持ってしまってもおかしくない。
物語が破綻する危険すらありえる。
本作では、二人の変化は自然だし、必然性が高い。
正直、後半に向かうつれて「やりすぎでは?」と思ってしまった箇所もある。
まあでもギリギリには留めてくれたかな、とった具合。
シナリオ自体はとても丁寧。
前半のちょっとしたセリフが伏線となり、後半で次々と回収されていく。
丁寧に脚本を作ったんだろうなあといった印象を覚える。
とにかく本作はキャラクターが魅力的すぎるので、繰り返し鑑賞したくなる。
コメディ・タッチでたくさん笑える映画なので、多くの人におすすめしたい。
キャラが魅力的なコメディ作品はコチラ。
■ブレット・トレイン
神は見返りを求めるの作品情報
■監督:吉田恵輔
■出演者:ムロツヨシ
岸井ゆきの
若葉竜也
吉村界人
淡梨
栁俊太郎
■Wikipedia:神は見返りを求める
神は見返りを求めるを見れる配信サイト
U-NEXT:○(有料)
Hulu:○(有料)
Amazonプライムビデオ:○(見放題)、○(Blu-ray)
Netflix:-
※2023年2月現在