映画『KAPPEI カッペイ』ネタバレなしの感想。時代に全く必要とされず、世界の救世主になれなかった男の物語

■評価：★★★☆☆3.5

「世紀末の罪」

【映画】KAPPEI カッペイのレビュー、批評、評価

『デトロイト・メタル・シティ』『みんな!エスパーだよ!』『ドランクキョンシーズ』の漫画家・若杉公徳による原作漫画の同名タイトルの2022年公開の実写映画。

1999年に世界が滅亡するというノストラダムスの大予言を信じて、幼い頃から救世主になるべく殺人拳の修行に明け暮れてきた1人の男。しかし、2022年になり世界が滅亡していないことを受け、彼は師範から解散を告げられる。目的を失う男だったが、やがて流れ着いた都会で、人生初めての恋を経験する。

若杉公徳作品で一番最初に触れたのは実写ドラマ化された『みんな!エスパーだよ!』。
突然テレパシー能力を手にした男子高校生の物語。
普通、特殊能力・超能力を得た主人公の漫画といえば、悪の組織と戦って世界の平和を勝ち取るシナリオが基本。
だが、『みんな!エスパーだよ!』はまるで違う。
出てくる主人公以外の超能力者は例外なく、全員が変態。
女子高生のパンツを見ようとしたり、あるいは女子更衣室をのぞこうとしたりなど、自らの性的な欲求を満たすことばかりで頭がいっぱいなのだ。

あまりに馬鹿げた内容でありながらも、男だったら理解できる内容にどハマりしてしまった。

『KAPPEI カッペイ』も思想はまるで一緒。
設定からアホさ丸出しで、かなりツボだった。
ノストラダムスの大予言を本気で信じた男が、弟子を集め、いずれくる世紀末のために、殺人拳の修行のためにひたすら鍛えたが、結局、世紀末は来なかったので、解散し、生きる目的を失った男が一人の女性に恋をする物語。
ふざけすぎにもほどがある。
良くこんな舐めた設定で、編集者は連載にＧＯサインを出したなあと思う。（褒めてます）

基本はただの恋愛物語ではある。
馬鹿すぎる設定が良いスパイスとなり、主人公を含む修行に没頭する連中が狂おしいほどに愛しく見えるし、応援したくなる。
本作は主人公以外にも多くの憐れな元修行僧たちが描かれる。
例えば、街を徘徊していたら、ストリートダンスをする女性集団のリーダーに恋をし、ダンスを覚える金髪の男。
あるいは尾崎豊の曲に心を奪われ、なぜか中学生の暴走族の総長になる４５歳の男。

誰もが必死に新しく見つけた生きる希望に邁進するのだ。
ＩＱの低い連中だけど、我々のような欲望にまみれた都会に住む腹黒い人間共とは違って、純度１００％のピュアボーイなのだ。
誰かを騙したり、誰からから大切なものを奪ったりしない。
ただ、純粋に希望を手にしたいだけなのだ。
あっという間に観客は、彼らを好きになる。

あと、彼らは孤島でひたすら修行に励んでいたので、我々とは異なる常識、価値観を持っている設定も良かった。
例えば、主人公は、同居させてもらっている大学生に、女性に触れたことがない人間をDTと呼ぶと教えられる。
すると、主人公は、DTである事実をなぜか誇りに持ち、人前で堂々と「俺はDTだ」と表明したりする。

本編の時間軸でなく、回想のみの出演だが、師範のキャラも魅力的だった。
長い白髪を振り回し、ことあるごとに「女」を敵として、「女」に惑わされることなく、修行に励むように野太い声で叱咤する仙人のような出で立ちの男。
いかに「女」は姑息な手を使って男を惑わすか。
いかに「女」は男にとって悪魔的な存在なのか。
弟子たちがちゃんと一人前の使い手になるように、名言でも吐くように熱を込めて指導する。
言ってしえば、師匠はただの女好きである。
今まで師匠が騙された経験を、弟子たちに教えているだけなのである。
心底、くだらない映画である。

クライマックスも良かった。
私が想像していた流れとは異なる結末を見せてくれたので個人的には良かった。

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