映画のくれた時間

約1500本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます(たまにアニメ・ドラマ・小説も)。面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

配信ドラマ『三体(Netflix版)』ネタバレなしの感想。優秀な科学者の周辺で次々と不穏な出来事が起こる。

■評価:★★★☆☆3.5 

 

「SFの面白さの極限に迫る」

【配信ドラマ】三体(Netflix版)のレビュー、批評、評価

 

ゲーム・オブ・スローンズ』の製作総指揮を務めたデイヴィッド・ベニオフ、D・B・ワイスによる、2024年3月21日配信のNetflixドラマ。

 

【あらすじ】優秀な科学者の周辺で次々と不穏な出来事が起こり、落ち着かない日々を過ごす学生時代からの仲間たち。 実はこの不可解な現象の起源は、文化大革命 時代の中国にあった。(Netflix引用)

 

世界で2900万部売れた中国人作家、劉慈欣(りゅう・じきん)による同名SF小説を原作とするNetflix制作のドラマとなる。

原作は全3巻(上下巻を含め5冊から成る)+2冊(前日譚+スピンオフ)の超長編。
数式こそ出てこないものの、物理学用語もバンバン出てくる所謂ハードSFに分類される。
私は大して勉強してこなかった専門卒の無学な男なので、原作の読破には数ヶ月の長い時間を要した。

だが面白い。
エンタメに全振りされたストーリーがとてつもなく楽しくて、読み終わった後は三体ロスに陥り、しばらく無力に過ごしていた。
映像的なダイナミズムがすごく、とにかく展開がぶっ飛んでいるんだが、すべての事象が物理学でロジカルに説明される。
そのため、すべてリアルに感じられるのが、劉慈欣の作家としての比類なき才能である。

SF小説としての頂点に立ったと言っても過言ではない化け物のような作品。
私が生きている内に刊行され、読めたことが誇らしく思う。

小説版のレビューは下記に記載してあるので、興味があれば読んでもらいたい。

movies-ocean.hatenadiary.com

しかし、とんでも映像が連発する本作をNetflixはドラマ化するというのだから恐れいった。
三体は多くのファンがいるので、中途半端なクオリティは許されない。
なおかつ、今回、Netflixからゴーサインが出たのはシーズン1のみ。
(リスクを取るため、シーズン1の反響次第で続きの制作の可否が決まる)
描かれる内容は2巻の頭程度までとのこと。
正直、不安で仕方がない。
なぜなら、三体の真の見せ場は2巻の後半以降に訪れる。

だが、多大なプレッシャーが掛かる中で、ドラマ制作に踏み切ってくれたのは、原作ファンからしたら嬉しい限り。

配信当日から鑑賞し、2日間で完走させていただいた。

原作では舞台が中国のため、登場人物の9割が中国人。
一方、ドラマ版は世界ドラマとして、世界中の人をターゲットにしているため、舞台はイギリスに変更され、主人公もイギリス人となる。
原作とは異なり、白人、黒人、アジア人が万遍なく出てくる。

原作と同様、冒頭は中国で1966年に発生した政治闘争『文化大革命』のエピソードから始まる。
文化大革命は資本主義を否定し、新しい最高の社会主義を作ろうぜ、といった目的の運動。
そのため、文化大革命を主導した毛沢東に傾倒する学生運動グループ『紅衛兵』は、当時のイギリスやアメリカを始めとする西洋の文化を否定する。
そんな中、主人公の1人である女性、葉文潔の物理学者の父は、文化大革命の餌食となり、命を奪われる。
物理学が資本主義の範疇に含まれるようで、目の前で暴行を浴びせられる様を、葉文潔は目撃する。
なかなかハードなシーンで、葉文潔に一気に感情移入させられる。

冒頭からかなり丁寧に作られており、期待感を煽られる。
原作とは人種や、性別と設定が大きく異なるキャラクターがほとんどで構成されるが、違和感なく鑑賞出来た。

結論を伝えると、私は面白かった。
原作はかなり長いため、特に1巻は世界観の説明にも多くの文量が割かれている。
ドラマ版はかなり端折ってテンポ良く描いているが、それでも5話くらいまでは起伏に乏しく、冗長さは否めない。
原作を知ってる私なら、あとどのらいで見所が来るのか分かる。
だが、原作未読者は「この後、本当に面白くなるのだろうか」不と、安になって鑑賞を辞めてしまいそう。

また、結末も盛り上がりに欠ける。
制作陣はシーズン2の制作を勝ち取るため「ラストには大きな仕掛けをした」とインタビューで語っていたが、特にそんな印象はなかった。

シーズン1は伏線を散りばめることがメインになってしまった印象。
シーズン2の制作は難しいような気がして、不安でいっぱい。

原作との違いに違和感はなかったが、一箇所だけ残念だった。
原作ではストーリーの流れの都合上、年代ジャンプして巻ごとに異なる主人公が立てられる。

原作では、最終刊3巻の上巻の前半の視点人物、雲天明(ユン・ティエンミン)というキャラが出てくる。
余命幾ばくも無い病に冒され、安楽死を受けることを決意する。
そんなとき、色々あって大金が舞い込んでくる。
今から命を落とそうっていう時に金持ちになっても、どうしようもない。
そこで、雲天明は星を買って、かつて好きだった大学時代の同級生だった程心(チェン・シン)にプレゼントしようとする。
程心とは当時、交流はあった。
でも深い関係にはなれず、ありふれた友達程度の関係から進展はなく、卒業してから会うことはなかった。
視点が程心(チェン・シン)が切り替わると、とんでもない展開を迎える。

この展開は、ドラマ版でも描かれる。
原作では異なる年代を生きる主人公らが、ドラマ版では全員が大学時代の同級生で友達という設定に改編されている。
そのため、原作の雲天明の胸が締め付けられる純愛が、ドラマ版では描かれなかった。
一応、描こうとはしているんだけど、原作の雲天明が持つ純然さの描写は難しかった。
正直、新海誠的な中二病感満載ではある。
でも個人的にはものすごく好きなシーンなので、唯一、残念な箇所である。

全体的には、ドラマ版は楽しめるし、SFに関心がある人には鑑賞してもらいたい良作ドラマ。

 


SFの面白さが詰め込まれた傑作はコチラ。

■なめらかな世界と、その敵

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■宇宙のランデヴー

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三体(Netflix版)の作品情報

■監督:デレク・ツァン
■出演者:ジョヴァン・アデポ
ジョン・ブラッドリー
リーアム・カニンガム
エイザ・ゴンザレス
ジェス・ホン
マーロ・ケリー
アレックス・シャープ
シー・シムーカ
ザイン・ツェン
サーメル・ウスマニ
Wikipedia三体(ネタバレあり)
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):76%
AUDIENCE SCORE(観客):75%

 

三体(Netflix版)を見れる配信サイト

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Amazonプライムビデオ:-、原作はコチラ
Netflix○(見放題)
※2024年3月現在