映画のくれた時間

約1500本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます(たまにアニメ・ドラマ・小説も)。面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

小説『三体』ネタバレなしの感想。世界的な科学者たちが謎の死を遂げ始める

■評価:★★★★★5 

 

「SFの可能性の無限さ」

【小説】三体のレビュー、批評、評価

 

 

【あらすじ】物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート女性科学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)。失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。数十年後。ナノテク素材の研究者・汪淼(ワン・ミャオ)は、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。その陰に見え隠れする学術団体〈科学フロンティア〉への潜入を引き受けた彼を、科学的にありえない怪現象〈ゴースト・カウントダウン〉が襲う。そして汪淼が入り込む、三つの太陽を持つ異星を舞台にしたVRゲーム『三体』の驚くべき真実とは(Amazon引用)

 

【三体Ⅰ】※ネタバレなし
『三体』は2020年頃から『アメトーーク』の本屋芸人など、多くのメディアで話題になり始めた印象がある。
本作は、本国中国で『地球往事』のタイトルで2008年1月に刊行されている。
2015年8月23日にアメリカが開催するSF小説ノーベル賞とも言われる最も権威ある賞、ヒューゴー賞の長編小説部門賞を受賞。
満を持して2019年7月4日に早川書房から翻訳本が刊行され、日本上陸を果たす。
さらに日本の有名なSFの賞である星雲賞に、2020年度の海外小説部門で本作は受賞しているので、この辺りから認知が広がったと思われる。

また本作は、Netflix制作の実写ドラマが2024年3月21日に配信が決定している。
予告はこちら。

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元々、私は『三体』を書評ブログで知った。
とにかくスケールがデカく、ストーリーが面白い久しぶりの本格SF、といった紹介がされており、すぐに興味を持った。

その後もバラエティ番組の『アメトーーク』の本屋芸人でも紹介されたり、多くのメディアで耳にしたので、約束された傑作なんだろうと確信した。

私は最近SFに、ハマっている。
SFは冒険的な要素が強く、良質なSFは次の展開にワクワクさせてくれる。

例えばSF小説『宇宙のランデヴー』は突如として太陽系に謎の巨大な円柱状の飛行物が飛来してくる。
主人公らは飛び乗って内部を調査する、といったストーリー。
私はまだSFの小難しい文体には慣れていないものの、先が気になり過ぎて一気読みさせられた。

なので『三体』にも強い興味を惹かれた。
当該書評ブログでは『全5巻のうち、1巻は理系の専門用語が多く難しい』と感想が書かれていたので、なかなかすぐには手につけられなかった。
また全5巻という長さにも、伸びる食指を叩き落とすに充分だった。
だが、近年、クオリティの高いドラマを量産するNetflixが実写版を制作していることを耳にした。
せっかくなのでまずは原作から楽しもうと、思い切ってKindle版の小説を大人買いした。

冒頭は、舞台が中国で、文化大革命の渦中の騒がしい描写から始まる。
1967年から始まった毛沢東主導の資本主義を批判し、新しい社会主義を主張する政治運動となる。

そもそも私は文化大革命を始めとする中国史については無知なので、冒頭からなかなか入り込めず、「きっとこの先に面白くなるはず」と信じて読み進めた。
50ページ辺りで文化大革命のエピソードは終わり、舞台はようやく現代に移る。

予想通り、ここから一気に面白くなった。
主人公がとあるきっかけにより、『三体』というタイトルVRゲームを始める。

このゲーム内容がぶっ飛び過ぎていて面白い。
私はそこそこゲームをプレイしてきたほうだが、既存作品の系譜を持たない奇妙な内容なのだ。

『三体』のゲームの世界では、太陽が3つある。
その太陽の大きさが均一ではなく、また動きも予想出来ない。
太陽の位置によって「乱紀」「恒紀」と表現されており、乱紀のときは地上は酷い環境となる。
空の半分くらいを覆う巨大な太陽によって、三体世界に存在するすべての水分を蒸発させ、人は自然発火し、死に至る。
また氷河期も存在する。

まるで映画『インターステラー』を彷彿とさせる、とんでもない想像力によって描かれた壮絶かつ壮大な世界が広がっている。

しかも三体の世界では、住むキャラクター(つまりは三体星人)もイカれた進化を遂げている。
太陽が急接近したりして死を予感すると、「脱水」と称し、体中の水分を抜き取って、ペラペラになった皮を倉庫に保管する。
安全な時期がやってくると、皮に水をぶっかけて復活させる。
お前らはキクラゲなのか、と、突っ込みたくなる特殊体質である。

話を現実に戻すが、ゲームの内容は面白いけど、ストーリーの本筋とは思えない。
ゲームはどこまでいって仮想世界の話で現実ではないから。

ゲームが一体、どんな風に絡むのか。
そんな期待を胸にページをめくる手が加速する。

やがて明かされる真実には腰を抜かした。
本作がなぜここまでぶっ飛んだ評判を得ているのか納得である。
とてつもないスケールの大きさにワクワクが止まらない。
もしかすると、今まで見てきた映画や小説と比べると一番のスケール感かもしれない。

本作の最大の見所はラスト。
これまたダイナミックで笑える。
ドラマ化したらどんな映像で楽しませてくれるのか今から胸が踊る。

原作小説は登場人物の多くが中国人で、漢字名にルビが振ってあり、中国読みを覚えるのがなかなか大変。
でも、そんな苦労はどうでも良くなるくらいに面白い。
Netflixドラマでは舞台がアメリカになっており、登場人物はアメリカメインで構成されている模様)

というか1巻から、普通に面白かった。
ただただ難しいだけの印象があったが、嬉しい誤算だった。

 

【三体Ⅱ 黒暗森林 上】※三体Ⅰのネタバレあり
いよいよ待望の2巻へ突入である。

元々、本作を読むきっかけとなった書評ブログでは『三体Ⅱ』が一番面白いと書かれていた。
1巻のフリが回収されるので、続きが気になって寝不足必至、みたいなことが書いてあった記憶がある。
そのため、無茶苦茶期待して読み始めた。

まず、読み始めて最初に抱いた感情は戸惑いだった。
というのも、1巻の主な視点人物で主人公だと思い込んでいたナノマテリアル開発者の汪淼(ワン・ミャオ)が一向に姿を見せない。
それどころか、多くの新キャラに満たされていて、若干、混乱しながら、読み進めることとなった。

また、一向にページをめくる私の手が加速しない。
理由は、ストーリーが全く進行しない。
謎の老人グループが出てきたり、謎の女好きの青年が人生に悩んでいたりと、まるで三体人との戦いについて進展しないのだ。
前巻は三体人とコミュニケーションを取っている組織の船を強襲し、成功したところで物語は終わっている。
物語の進展を期待して読み始めたのに、何のためなのか良く分からないシーンが延々と続き、きつかった。

4割ほど読み進めたところでようやく、大きな進展を迎える。
謎の女好きの青年が、三体人とのことについて、とある会議の場に招聘されるのだが、予想打にしない展開が待ち構える。
詳細は伏せておくが、三体人との戦いのための作戦自体もぶっ飛んでいて面白い。

三体人は地球よりも圧倒的に文明が進んだ宇宙人。
文明が進んだ故なのか、地球人にはない不思議な特性を持っており、それは心の内をやり取りすることが可能なのだ。
そのため、三体人は嘘をつく概念がない。
隠し事や嘘は必ず見抜かれるので。
この不思議な特性を利用した何ともユーモラスな作戦が無茶苦茶興味深い。

本作の終盤でも面白い見せ場がある。
このシーンはそこまでダイナミックではないのだが、非常に面白いアクションパートになっている。
恐らく今まで観たことのないアクションであり、これもまたドラマ版が楽しみである。

1つだけ気になったのが、三体人について。
前巻だったか今巻だったかどっちか忘れたのだが、三体人の視点のパートがある。
三体人といえば、まるで地球とは異なる環境下で生きる宇宙人。
そのため、倫理観は地球人とはまるで異なるはず。
なのに三体人同士の会話がひどく地球人的で、少しだけ冷めてしまった。
もっとぶっ飛んだ倫理観が垣間見れるようなキャラ設定にしてほしかった。

とはいえ、そんなマイナス材料は本編の面白さを前にしてはどうでもいい。

 


【三体Ⅱ 黒暗森林 下】※三体Ⅱ上までのネタバレあり

前巻は第二巻の上巻で、宇宙での隠密作戦が一番の見せ場となり、幕とじとなる。
見せ場としてはややこじんまりしている。
宇宙空間が舞台なのでスケール感はある。
だが対立構造が個人対個人なので、物語のスケール感を考えると、起伏はやや控えめ。

下巻では待ちに待った、超絶超ど級のスケール感のある展開を終盤に見せてくれた。

そもそも序盤からワクワクさせてくれる。

むしろ個人的には終盤より、序盤の展開のほうが好みだった。
早々に、本作の主人公となる羅輯(ルオ・ジー)がコールドスリープから目覚める。

起きた世界は二百年後。
二百年経つと、地球の文明はどうなっているだろうか。
どんな発展を遂げ、人々はどんな生活を送っているのか。

ルオジーは目が冷めると、医者と会話をする。
冬眠施設にいたので、解凍作業は当然、医者がする。

まず二百年後の中国人の医者の中国語が英語混じりになっている。
長い年月を掛けて多くの人に使われている言語の融合現象が起きているらしい。

また、医者の発する言葉は全部、天井に字幕として投影される。
医者の着る白衣には、対象者(ルオジー)の気分に合った映像が流れる。
施設の外に出るとライトが自動で光るのだが、これも個人の体調に合わせた光量となっている。

こんな感じでテクノロジーが我々とは段違いに進化している。
特にパーソナライズ化が進んでおり、個人に最適化されているのだからとても生きやすい。

序盤は、二百年後の世界の描写を丁寧に描いてくれる。
個人的にはとても興味深かった。
何なら世界観の説明だけで全編使っても良かったくらい楽しい。

ついつい読みながら、「他の生活の場面は、2023年現在とどう変わっているのだろうか」と妄想を膨らませる行為を楽しんだ。

特に二百年後の進化したテクノロジーで面白かったのが自転車。
自転車といいながら、形状は傘なのだ。
どう使うのかというと、傘が宙に浮いて自由に空を飛べる。
まさにメリー・ポピンズである。

他にもさまざまな技術進化を描写してくれているので、是非とも多くの人に楽しんでもらいたい。
コールドスリープの技術が羨ましく思えた。
だってコールドスリープが自在に利用できるようになったら、百年後、二百年後のエンタメを楽しむことができる。
また完結したHUNTER×HUNTERも楽しめるだろうし、妄想が捗る技術である。

序盤からこんなに楽しいのに、終盤ではダイナミックな展開も待ち構えている。
最高の一冊。
なぜ三体の第二巻の評判が良いのか納得できる。

 


【三体Ⅲ 死神永生 上】※三体Ⅱ下までのネタバレあり

前巻では、とうとう三体星が人類に牙を剥いた。
三体星と地球との圧倒的な文明力の差を見せつけるように、トラック1台分程度の偵察機、水滴一機によって、カップラーメンでも食べ終わる程度の時間で、人類が保有する1000もの宇宙艦がほぼ壊滅に追いやられる。

もはや蟻と巨人くらいの差がある対立だった現実を突きつけられ、私を含む読者を絶望の淵へと容赦なく叩き落された。

また、壁面者の羅輯(ルオ・ジー)の最後の切り札も素晴らしかった。
まさかの人類と三体星の自爆を突きつけるアイディアには脱帽。
ただまあ、勝つには自爆しかないのも、広い宇宙の中での人類の弱さを実感させられる。

そんなエンタメ的など迫力な映像及び、斜め上を行く展開を見せてくれた前作の続編となる3巻では、暗黒森林による抑止紀元と元号が変わる。
全く新しい主人公は余命幾ばくもない青年、雲天明(ユン・ティエミン)。
ストーリーは安楽死法により、安楽死を選択するかどうかの葛藤を迎えている中で、過去の行いによって思わぬ大金が転がり込んでくる。
手に余る金を前にして、かつての大学の同級生で当時、一目惚れした女性、程心(チェン・シン)が頭をよぎる。

天明(ユン・ティエミン)はこのあと安楽死について最後の決断をする。
その後、主人公が程心に切り替わるのだか、なかなかに雲天明の身にぶっ飛んだことが起きる。
正直、あまりに予想とかけ離れ過ぎた展開でついていけない。
とは言え、明らかに後半の伏線に繋がる内容なので、雲天明の行く末に期待しながら読み進めた。

また本作では冒頭から三体星と友好関係が築かれている。
地球はいつでも両惑星を滅ぼす力を握っているので当然だろう。

しかし、このままだと平行線をたどるのみ。
一体どんな対立が迎えるのだろうと期待した。

本作はテンポが遅いのだが、中盤辺りで訪れる人類の危機がスケール感が大きくて面白い。
個人的には2巻よりもダイナミズムを感じさせてくれた。
というのも2巻では人類が困難に晒された舞台が宇宙上なので、スケール感はあるものの、どこか非現実的に感じられた。

もしかすると、今まで読んでいた三体で1番、緊迫感を覚えたのは本作かもしれない。
困難の解決方法も見事だし、更にもう一歩踏み込んだとんでもない展開が我々を楽しませてくれる。

本当に作者の想像力は無限大ですごいと思う。
ここまで読んてきて毎巻、新しい驚きとワクワクを与えてくれる。
才能ありすぎ。

いよいよ次は最終巻。
長く楽しんできた物語ともいよいよお別れで感慨深いが、最後までユニークなシーンを見せてくれたら嬉しい。

 


【三体Ⅲ 死神永生 下】※三体Ⅲ上までのネタバレあり

前作の上巻は最高に楽しませてくれた。
普通、上下巻に別れている小説って、上巻は下巻に向けてのフリのみが描かれ、見ごたえのない作品が多い。
そのため上巻は退屈だけど、下巻は面白い作品を良く目にする。
例えば私の好きな医療小説『チーム・バチスタの栄光』はまさにそうだった。

だが、三体に至っては上巻も爆発的な面白さ。
2巻では三体星及び、三体人が欲しがる地球の座標を全宇宙に公開しようとする脅しをかけ、抑止に成功。
だが、3巻の上巻では三体人はまさかの強行突破をし、チェン・シンはビビってソードホルダーとしての任務を放棄し、まさかの地球が植民地になるという衝撃展開。
さらには人類全員がオーストラリアに移住するという息の詰まりそうな仕打ちに、お先真っ暗となった。
まるで打開案が浮かばない中、まさかの深宇宙を航行する宇宙船が座標公開し、ビビった三体人が逃げてし、幕を終える。
しっかりと上巻だけでも起承転結あるのが素晴らしい。

いよいよ迎えた、最新巻である。
いずれやってくる暗黒森林攻撃への対策に人類が奔走するところから始まる。
主に3つのプランが掲げられる。
1つ目は、バンカー計画。
暗黒森林攻撃によって壊された太陽の爆発から身を守るため、人類は艦隊に乗って、木星とか土星の裏側に避難するというもの。
2つ目は光速船による太陽系からの離脱計画。
3つ目は、暗黒領域計画。
太陽系を低光速のブラックホールに変えるという内容で、個人的にはイメージがしづらくて良くわからなかった。

もはや読んでいる私はいったいどうやって対処するのかの案がまるで浮かばない。
一体、人類は生き延びることが出来るのか。

感想からいうと、最高の結末だった。
そも、序盤で、チェン・シンはとある人物と再会するのだが、かなりの胸熱展開だった。
この再会劇がもたらす、人類の一縷の望みがまるで想定しておらず、貪るようにページを捲った。

正直、全5冊の中で1番、難解だったしれない。
本作は、全5冊の中で特にぶっ飛んで展開を見せており、すべてロジカルに現象を説明している。難解な物理用語のオンパレードでなかなか理解をするのが難しい。

そう意味でも後出しジャンケン的にも思える。
唐突に新しい要素をぶち込んで、無理くり説明することで成立させているように思えなくもない。
だとしても、豊か過ぎる創造力にワクワクさせてもらえたので、私は問題なく楽しめた。

中盤に向けて、とある紙切れが出てくるのだが、この紙切れの発想はとんでもない。
誰がこんなの予測できるだろうか。
あまりにイカれた内容なので、正直ツッコミどころはある。
でもゴッホのとある絵で説明される分かりやすい映像には楽しませて貰ったし、実写化される際はどのように映像化するのか楽しみ。

作者は子供の感性を忘れていない人なんだろうなと思う。
映像的迫力であったり、自由な発想だったり、広げた風呂敷から逃げずに真正面から描いてくれるので、本物のエンタメだった。

読了後は数十分、何もできずにただ過ぎる時間の流れに身を委ねていた。
長い物語だったけど、終わってしまってとても淋しい。

最高の読書体験だった。
後は2024年3月に配信されるNetflix実写ドラマを待つのみ。

 

想像の限界に挑んだおすすめSF作品はコチラ。

■なめらかな世界と、その敵

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■宇宙のランデヴー

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三体の作品情報

■著者:劉慈欣
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