■評価:★★★★☆4
「ミステリーと冒険の面白さ」
【漫画】天国大魔境のレビュー、批評、評価
『それでも町は廻っている』『木曜日のフルット』の石黒正数による月刊アフタヌーンにて2018年1月25日から連載開始のSF漫画。
「このマンガがすごい!2019」ではオトコ編第1位にランクインした。
【あらすじ】壁に囲まれた施設で外の世界を知らずに育つ子供たち。廃墟となった日本を旅する少年と少女。二つの物語が同時進行で語られる。
キャラクターが魅力的な漫画を探していたら、Amazonレビューで本作を挙げる人がいたので手に取ってみた。
実際に読んでみると、キャラクターよりストーリーの作り込みにビックリさせられる結果となった。
本作は壁に囲まれた施設で過ごすキャラを描く天国編と、廃墟となった日本を旅する少年マルと少女キルコを描く魔境編の2つの舞台が交互に描かれる。
何よりも驚かされるのが、まるでミルフィールのように何重にも層となったミステリー要素である。
例えば、魔境編では「天国で同じ顔をした人間を探し、薬を打て」と、少年マルはとある人物に命令されたため、ボディガードとして雇った少女キルコと共に天国を目指している。
だが、天国はどこにあるのかわからないし、なぜ薬を打つのかも謎である。
二人はそんなフワフワした状態で旅をしている。
さらには荒廃した日本の至るところには、人喰いの生き物・ヒルコがうようよと徘徊している。
なぜ、ヒルコは存在するのか。
また、なぜか、キルコはヒルコを倒せる謎の紋章が刻まれた銃を持ち、またマルもなぜか触れるだけでヒルコを消滅させられる謎の技を持っている。
天国編では、壁に囲まれた施設には存在しないはずのヒルコの絵を描き続ける謎の少年もいる。
謎×謎×謎×謎。
あまりに強烈なエンジンを搭載している本作は、次々と先のページを捲らせてくるのだ。
冷静に考えたら、著者の石黒正数の前作の『それでも町は廻っている』もミステリー要素の強い話が多かった。
『それでも町は廻っている』は東京都大田区の下町の商店会の純喫茶で、なぜかメイドとしてバイトする女子高生ほとりと、彼女を取り巻くキャラたちとの交流を描いた1話完結のコメディ漫画。
現代劇ではあるんだが、宇宙人が登場したりと、著者のSF好きを感じさせるぶっとんだ展開も見せてくれる。
また、ほとりは探偵に憧れていて、何かきっかけがあればすぐに謎解きを始める変わった癖もある。
著者はミステリーも好きなんだろうなと思わせる。
劇中に出てくるトリックも上手く作り込んでくれるので、いつも感心しながら楽しんでいた。
話を戻すが、『天国大魔境』に関しては、併せて『進撃の巨人』も影響を強く感じさせられる。
『進撃の巨人』は壁に囲まれた町が舞台で、ある日、超大型巨人が襲来する話。
なぜこの世界には巨人が存在するのか、を始めとする多くの提示された謎を回を追う。
1つ解決しては、また新たに謎が生まれていく。
吸引力がとてつもない漫画。
そのため、『進撃の巨人』に好きな人は強くおすすめしたい。
欠点を挙げるなら、謎を詰め込み過ぎているのは気になる。
ちょっとでも雑に読むと細かい伏線を見逃してしまう。
また異常な数のキャラが登場するので、キャラの立ち位置が分からなくなったりとで、話を追い掛けるのが大変。
ちゃんと理解したい場合は、何度も繰り返し読む必要がある。
私も、最終巻である8巻が今イチ理解できていないので、再読中。
あと当初の目的であったキャラの魅力については普通だった。
分かりやすい特徴で楽しませるキャラは少ない。
圧倒的に、最近読んだ『アンダーニンジャ』のほうが魅力的だった。
本作はキャラよりも、ストーリーの作り込みや見せ方が上手いなといった印象。
キャラの魅力を楽しみたいなら『それでも町は廻っている』のが圧倒的におすすめ。
すべてのキャラクターがキャラ立ちしている稀有な作品。
個人的に印象的だったのは、魔境編でマルらが道中で出会う宇佐見医師とのエピソードである。
宇佐見医師からちょっとした依頼を受ける流れなのだが、普通に号泣してしまった。
残酷な世界での悲哀を上手く表現していて素晴らしかった。
本作は2023年7月の時点で最新刊は8巻で、クライマックスに差し掛かっている印象。
恐らくあと3~4巻で終わることが予想される。
アニメの放送が2023年4月から始まったのも、作者の中で完結の時期が見えたからだと思われる。
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