映画のくれた時間

約1500本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます(たまにアニメ・ドラマ・小説も)。面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

漫画『アンダーニンジャ』ネタバレなしの感想。現代日本に生き延び暗躍する忍者らを描く

■評価:★★★★☆4.5 

 

「忍者の面白さ」



【漫画】アンダーニンジャのレビュー、批評、評価

 

ルサンチマン』『ボーイズ・オン・ザ・ラン』『アイアムアヒーロー』の花沢健吾著のアクション漫画。

 

【あらすじ】太平洋戦争後、GHQによって解体された忍者組織は、紛争やテロの時代になり消滅したかに見えたが、再び多くの忍者が日本国内の官民、あらゆる組織に潜伏し、暗躍していた。その数は約20万人といわれ、忍者は現在も日本に存在している。しかし、末端の忍者によっては職にあぶれ、ニート同然の生活を送っている者もいた。その中の一人、雲隠九郎はある日、上からの指示で、最新鋭の装備と共にある高校への潜入の依頼を受ける。

 


結論から言うと最高だった。
ハチャメチャに面白くて、ページを捲るたびにワクワクさせてくれる。
キャラクターの魅力とストーリー展開の面白さの両輪を備えた作品。
個人的な作者の花沢健吾の評価は、漫画家で比較すると『チェンソーマン』の藤本タツキと『HUNTER×HUNTER』の冨樫義博に匹敵する実力の持ち主。

過去作はどれも面白い。
ボーイズ・オン・ザ・ラン』は、2005年から連載が始まったコメディ・ドラマ漫画。
サラリーマンをする平凡な男が恋をするのだが、胸がはちきれそうな不条理な展開を迎える。
映画やドラマにもなっている。
私は両方とも鑑賞したが、原作漫画が圧倒的にクオリティが高い。
原作だから当たり前ではあるんだが、一番、胸をしめつけられた。

アイアムアヒーロー』も最高である。
売れない漫画家が主人公。
彼女はいるが、彼女は主人公の前で、元カレで現在売れっ子の漫画家の話ばかりする。
漫画も描き続けているが上手くいかないし、私生活ももやもやしながら、かろうじて生きている冴えない男の日常系物語。
本作の1巻は漫画業界に一石を投じたユニークな仕掛けがしてある。
あえて伏せておくので、『アイアムアヒーロー』を読んだことない人は、是非とも読んで貰いたい。
私はこの1巻で心を奪われ、以降は花沢健吾の過去作を掘ったり、新作が出れば追い掛けるようになった。
そのくらい、爆発力のある演出で楽しませてくれる。
もちろん2巻以降も最高で、連載当時は新刊が待ち遠しい作品の1つだった。

※余談だが、『アイアムアヒーロー』は多くの伏線を回収せず、最終回を迎えていて賛否が分かれている。
だが、個人的にはクライマックスに向かうまでのワクワク感がとてつもなかったので、問題ない。
また、あまりに不評だったせいか、現在は電子書籍限定で、80ページ加筆された新最終話が公開されている。
最近になって読んだが、素晴らしい内容だった。

話を戻すが、過去作がすべて面白いのだから、『アンダーニンジャ』も期待して手に取った。
期待を上回るとてつもない面白さ。
まずはストーリーが魅力的。
印象的だったのが、滑稽なキャラの行動や滑稽な存在・物をフリにして、シリアスなオチで楽しませてくれる展開の連続が楽しい。

例えば、末端の下忍・九郎は仕事があぶれていたが、突如、依頼が来る。
依頼のために渡された荷物の中には制服と一緒に謎のダサいパーカーが入っていた。
(九郎はここで、高校に潜入する任務と推測する。忍者は受けた依頼内容も自ら、調べる必要がある)
実は、このダサいパーカーが、最新式の透明になれる装備なのだ。
最新と表現したのには理由がある。
現在、忍者が現場で着ているものよりも新しいもの。
つまり、最新式の兵器が配備されている=戦場の最前線が主人公がいる場所ということになる。
この展開の見せ方、上手すぎやしないだろうか。
だって、本当にパーカー、ダサいんだもの。
最終的には、このダサいパーカーを着る九郎がカッコ良く見えるのだから面白い。

こんな感じで読者に「何じゃこりゃ」と思わせた後に、ビックリさせられるオチを見せる展開が非常に多い。
他にも、忍者のざっくりとした階級は上忍、中忍、下忍がある。
当然、上忍が一番上の位で、下が下忍。
だが、アンダーニンジャの世界では下忍よりも更に下の階級、汁忍がいる。
汁忍の字面だけで笑いが零れた。

だが、これも花沢健吾の仕掛け。
汁忍のエピソードは10巻で描かれるのだが、中々のシリアスな壮絶シーンで驚かされる。
汁忍っていうふざけた名称がすっかり霞む。

こんな感じでストーリーのフリとオチの見せ方が上手すぎて、先が気になって仕方ない。
もともと、花沢健吾の物語の描く力が投稿時代から凄かったと、当時の担当編集がTVか何かで語っていたのを耳にしている。
改めて、本当に物語の作り方が上手くて頭が下がる。

凄いのはキャラクター作りもそう。
出てくるキャラの誰もが魅力的。
個人的に好みなのは、川戸さんという九郎と同じボロアパートに住む、20代半ばくらいの女性。
夜のお仕事をしていて、どこか抜けている。
姿を見せる日中はだいたい酒を飲んでいる。
仕事終わりに、漏れそうになると、平気で駐車場で野しょんをする。
常にニコニコしていて、みんなのムードメーカー。
メインストーリーに直接絡んでこないのだが、魅力的で、登場するだけで嬉しくなる。

九郎を始めとする忍者たちもとてつもなく魅力的。
忍者という性質があるので、常に読者を騙す行動を見せてくれる。
例えば、ただのデブのおっさんかと思った佐々魔の正体にはビックリさせられる。
あるいは、九郎らが所属するNINと対立するUNのとある女性キャラなど。
というか、面白味に欠けるキャラを挙げるほうが大変なくらい、どのキャラも魅力的。

ユーモラスな忍術もたくさん見せてくれるし、どのページも最高。
しいて欠点を挙げるなら、若干、メインストーリーの展開が遅く感じるときもある。
※『アイアムアヒーロー』でも感じたこと。

とはいえ、キャラクターがだらだらと交わす意味のない会話劇も面白い。
例えば、川戸さんがある日、女性器を変態外国人に見られた、を切り口に会話が始まる。
その時、誰かが「女性器の名前の頭に『お』はつけないの?」と訊ねる。
すると、「私は敬意を表するものには頭に『お』をつけるよ。例えば『おしっこ』。黄金水は夜の仕事で金を生む」と持論を語る。
この凄く無意味な会話なんだけど、謎に川戸さんは芯を持って言葉を吐く、というキャラ性が描かれるので好み。
やはり、無茶苦茶なことを言っているようで、ちゃんと理屈が通っている言葉を吐くキャラは魅力的である。

例えば、芸人で、天竺鼠の川原といういかれ芸人がいる。
とにかくボケが鋭すぎて、万人受けしない芸人。
だが、彼は無茶苦茶なことを言っているようで、すべてのボケに理屈が通っている。
彼の真骨頂となる動画を貼り付けておくので、良かったら鑑賞してほしい。

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話は逸れたが、芯のあるキャラクターは魅力的である。
特に悪役は芯があるほうが、恐怖を覚える。
裏を返して、まったく芯のないキャラを打ち出すのもありではあるが。

とりあえず2023年7月時点で10巻までの感想である。
無限に書けそうなので、ここまでにしておく。

2023年10月にはアニメも公開されるとのこと。
この先、もっと話題になること間違いなしである。

 

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■ガンニバル

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チェンソーマン

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アンダーニンジャの作品情報

■著者:花沢健吾
Wikipediaアンダーニンジャ
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