映画のくれた時間

約1500本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます(たまにアニメ・ドラマ・小説も)。面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

小説『僧正殺人事件』ネタバレなしの感想。マザー・グース見立て殺人を起こす僧正の正体に迫る

■評価:★★★☆☆3.5 

 

「見立て物の面白さ」

【小説】僧正殺人事件のレビュー、批評、評価

 

『グリーン家殺人事件』のS・S・ヴァン・ダインによる1929年(日本語訳は1950年刊行)刊行のミステリー小説。

 

【あらすじ】だあれが殺したコック・ロビン? 「それは私」とスズメが言った──。四月のニューヨーク、この有名な童謡の一節を模した不気味な殺人事件が勃発した。マザー・グース見立て殺人を示唆する手紙を送りつけてくる〝僧正〟の正体とは? 史上類を見ない陰惨で冷酷な連続殺人に、心理学的手法で挑むファイロ・ヴァンス。江戸川乱歩が称讃し、後世に多大な影響を与えた至高の一品。(東京創元社サイト引用)

 


童謡の歌詞に見立てた事件のミステリー作品は、誰もが様々な媒体で一度は通ってきたと思われる。
見立て事件とは、歌詞等の内容通りに人が命を奪われていく内容を指す。

横溝正史金田一耕助シリーズでは『獄門島』で俳句、『悪魔の手毬唄』では手毬唄で見立ての事件を描いている。
アガサ・クリスティー著『そして誰もいなくなった』も、見立てものとしては有名。
最近では水曜日のダウンタウンの名物企画『名探偵津田』でも手毬唄による見立ての事件が、短気でやかましい性格の津田を大いに困らせて視聴者を楽しませてくれた。

童謡による見立て事件の元祖と言われるのが、ヴァン・ダイン著の本作となる。

発表は1929年。
今から100年近く前の古典中の古典ミステリー。
今年41才の私の祖父母すらも生まれる前の作品なのだから、2024年の時点でも読み継がれていると考えるとしぶとい作品である。(凄いという意味)

私はミステリーにはそこまで明るくないが、ヴァン・ダインといえば、エドガー・アラン・ポーアガサ・クリスティエラリー・クイーンと共に、ミステリー界隈に大きな影響を与えた大物ミステリー作家の1人といった印象。

またミステリー小説を書くうえでのルールとして『ヴァン・ダインの二十則』を提唱していることでも有名。

例えば、謎を解く手がかりは、すべて記述するべきである、とか。
謎を仕掛ける読者に対してフェアであるべき、といった観点の項目が20羅列している。
良いと思うのだが、個人的には、ヴァン・ダインは少しお堅い人なのかな、といった印象が先行していた。
読みたい思いがありつつも数年間、積読していた。

最近はSFばかり読んでいたので、気晴らしにミステリーでも読もうかと思い、数年分のホコリを被った本書を手に取った。

思ったより読みやすいのは嬉しい誤算だった。
前述のようなルールを提唱する真面目っぷりや時の洗礼の耐え抜いた古典ということも相俟って構えていた、
だが、実際は無駄な描写が少なく、サクサクと読み進められる。
確かに随所に、数学的な知識や心理学者などの著名人の言葉の引用が必要以上に出てくる印象はあるが、文量は少ない。

また、テンポも良い。
最初の事件が発生し、探偵のファイロ・ヴァンスはたっぷり推理してやっと疑わしい人物を炙り出せたかと思いきや、また新たな事件が勃発する。
絶妙なタイミングで次の悲劇が勃発するため、話の密度が濃い。
古典とは思えないスピード感でサクサクとページをめくらせられる。

キャラクターが魅力的なのも良かった。
特に印象的だったのは、最初の事件が発生した屋敷の息子。
こんなに人を不快にさせる皮肉を良く思いつくなあ、と関心させられる性根の悪さで笑える。
絶対に友達になりたくないし、紙一枚挟んだ距離感の関係がちょうど良い。

屋敷の隣人の体の悪い奥さんと、その息子もアクが強くて記憶に残るタイプ。
チラホラと癖のあるキャラが登場するので、事件の真相と同じくらい彼らの行く末が気になって仕方なくなる。

シナリオに関してもしっかり驚きを与えてくれるので、そこそこの満足度を得られる、

さすがに現代のぶっ飛んだエンタメ作品を見慣れてる我々からするとオチの物足りなさはある。
でも、古典でここまで楽しませてくれるのは純粋に凄いと思う。
刊行された当時は、今の時代の『屍人荘の殺人』くらいのパンチはあったのではないか。

ヴァン・ダインは本作の他に『グリーン家殺人事件』も有名。
絶賛積読中なので、SF作品の息抜きをしたくなったら手に取ろうと思う。

 

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僧正殺人事件の作品情報

■著者:S・S・ヴァン・ダイン
Wikipedia僧正殺人事件
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