映画のくれた時間

約1500本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます(たまにアニメ・ドラマ・小説も)。面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

小説『宇宙のランデヴー』ネタバレなしの感想。太陽系に進入した異星の宇宙船ラーマとのファースト・コンタクトを描く

■評価:★★★★☆4

 

「異星の飛行体とのファーストコンタクト」



【小説】宇宙のランデヴーのレビュー、批評、評価

 

2001年宇宙の旅』『幼年期の終り』『都市と星』 『楽園の泉』のアーサー・C・クラーク著による1979年刊行のSF小説

 

2130年、太陽系に突如侵入した謎の物体は、直径20キロ、自転周期4分という巨大な金属筒であることが判明した。人類が長いあいだ期待し、同時に怖れてもいた宇宙からの最初の訪問者が、ついに現われたのだ!“ラーマ”と命名されたこの人工物体の調査のため派遣されたエンデヴァー号は、苦心のすえラーマとのランデヴーに成功、その内部へと入る。

 


ジブリを始めとする主にアニメの評論やレビューの動画をYOUTUBEにアップしているIQ148の頭の良いオッサン、岡田斗司夫のおすすめSF小説。
古いSF小説は慣れない専門用語が羅列されていたり、海外小説ということも相俟って読みづらいイメージが先行し、敬遠しがちだった。
私以外にも共感の念を抱く人はいるはず。

また、岡田斗司夫の膨大な知識によって繰り出されるアニメや映画のレビューの動画は、異常な見応えがある。
想像の斜め上を行く視点から解説される内容には、毎度、深く頷いてしまう。
頭の良い岡田斗司夫が本作をおすすめしていたので、何かしらの理由があるのだろうと信じて、勇気を振り絞って手に取ってみた。

結論からいうと、とてつもなく面白い。
最近になって私は古典SF小説を読むようになったが、私の中のSF小説の暫定1位である。
内容としては、冒険小説だった。

突如として太陽系に現れた謎の金属の筒状の宇宙船のような飛行体。
世界によってラーマと名付けられた飛行体の内部に、主人公らが侵入し、探索するのがメインのシナリオ。

一体、明かな人工物である全長50キロメートル、直径20キロメートルという円筒状の巨大な飛行体ラーマは誰が作ったのか。
内部にはラーマ人は存在するのか。
何のためにラーマは太陽系を飛来するのか。
といった謎をエンジンとして、読者はぐいぐいとページを捲らされる。

やけくそなくらいな巨大さが最高である。
やはり、人は巨大なものに畏怖を覚える。
進撃の巨人しかり、海の中に潜む巨大な生き物だったり。
理由が分かるならまだしも、意味不明に巨大なものには、本能的に脳が危険信号を発する。
ラーマは、もはや人知を超えた巨大さだし、その内部に侵入するなんて、ワクワクしないわけにはいかない。

さらに素晴らしいと思ったのはテンポ感。
古い小説といったら、その描写・説明は必要か?といった箇所が非常に大きく、冗長な印象が多い。
だが、本作は約370ページ中、冒頭の50ページ程度でラーマの内部に侵入している。
最近のムダを一切削がれた映画や漫画などのエンタメに慣れている人間からしても、悪くないスピード感の印象を受けた。
ラーマ以外の描写も最小限に留めており、読了のギリギリまで、ラーマの内部の探索にページが割かれているのも素晴らしい。

SF作品ならではの独特の世界観が構築されているのも良い。
例えば搭乗員に、宇宙キリスト教徒という、奇妙な宗教に加入している人がいる。
キリストは宇宙からの訪問者と信じて神学大系を構築している、2130年ならではの新しいキリスト教の宗派である。

あるいは、スーパーチンパンジーなる特殊な生き物が主人公らの宇宙船に搭乗している。
15時間ぶっ通しで動き続ける働き者。
じゃがいもの品種改良のように、DNAが人によっていじられていて性的な欲求は皆無なので、オスとメスによる面倒なトラブルは皆無。
さらに、IQは60近くあり、会話は難しいが、手話でならコミュニケーションが取れる。
このような独特の未来設定が、SFを読んでいる感を与えてくれるので、個人的にはツボだった。

想像以上に読みやすいのも良かった。
厳密には、読みづらい箇所も一部あった。
特に今回は、人類が初めて降り立ったラーマという謎の物体に進入する。
人間の価値観からは考えられない内部の造形が描写される。
丁寧に描写をしてくれているんだろうけど、どうしても分かりづらいところがあった。

だが、内部描写以外の主人公の心情描写はや会話などが読みやすくてサクサク進められた。
何なら、直近で読んだ2016年刊行の日本のミステリー小説『罪の声』よりも読了までのスピードは速かった気がする。

読者の読みやすさに配慮してくれているのか、冒頭に、長時間遅発照明弾なるもので、ラーマの先端から尻までの全貌を明かしているのも良かった。
例えば、空洞内部の長さは五十キロ、幅は十六キロ。
内部には街のような建物があったり、海のようなものがあったり、など。
この説明は58ページ目である。
そのため、読者からすれば、「内部に聳える建物や海に何があるのか」といった妄想を豊かに膨らませ、先の展開に期待ができる。

びっくりさせられたのはキャラクターの魅力のなさ。
まるでキャラクターが立っスていない。
正直、読みながら誰が誰だか良く分からない。
読み終わってから、記憶に残っているキャラクターは皆無である。
にも関わらず、面白い。
なぜなら、キャラクターという観点で語るなら、本作はラーマ自体がキャラクターとして最も魅力的。
ラーマは造られてから1万年が経過していることが、作中で明かになる。
つまりは一万歳という高齢で、中身はミテリアス。
何のために存在するのかが不明。
最高に興味深いキャラクターである。

とにかくワクワクが止まらない最高の冒険小説だった。
本作は2007年に、『エイリアン3』『セブン』『ゲーム』『ファイト・クラブ』『ゾディアック』『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』『ソーシャル・ネットワーク』『ドラゴン・タトゥーの女』『ゴーン・ガール』のデヴィッド・フィンチャー監督によって映画化される予定だった。
だが、資金繰りが難しく、制作は難航する。

だが、今年に入り、『プリズナーズ』『ボーダーライン』『メッセージ』『ブレードランナー 2049』『DUNE/デューン 砂の惑星』のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が、『DUNE/デューン』の続編を製作後に、本作の実写版を手がける内容が発表された。
最高である。

ようやく、2023年の現代となり、ラーマの内部を描くのに十分なCGの技術が成熟したのだろう。
ラーマを映像で見られる日が今から待ち遠しい。
古典SF映画で、実写化されていない作品は多いから、どんどん制作されてほしい。


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サイバーパンク: エッジランナーズ

movies-ocean.hatenadiary.com

宇宙のランデヴーの作品情報

■著者:アーサー・C・クラーク
Wikipedia宇宙のランデヴー(ネタバレあり)
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