映画のくれた時間

約1500本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます(たまにアニメ・ドラマ・小説も)。面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

小説『バトルランナー』ネタバレなしの感想。人間狩りのTV番組に参加し賞金獲得を目論む男を描く

■評価:★★★☆☆3.5 

 

「管理国家の恐ろしさ」



【小説】バトルランナーのレビュー、批評、評価

 

『キャリー』『シャイニング』『ザ・スタンド』『スタンド・バイ・ミー』『ミスト』『刑務所のリタ・ヘイワース(ショーシャンクの空の原作)』のスティーヴン・キングによる1989年7月1日刊行のSFスリラー小説。

 

【あらすじ】西暦2025年、世界は荒廃していた。アメリカは巨大な管理国家と化し、都市には失業者があふれていた。そんな彼らの娯楽といえば、絶えず流されている無料視聴テレビ「フリテレ」で流される残酷なクイズやゲームの番組だけだった。失業者のひとり、ベン・リチャーズは家族を救うため、難病の娘の治療費を捻出するために、やむなくTV出演に応募する。

 

本作は1987年にアーノルド・シュワルツェネッガー主演で実写映画となっている。
2023年現在より2年前の2021年に、『ベイビー・ドライバー』のエドガー・ライト監督が、本作を再び実写化するというネットニュースを見て、前もって原作を読んでおこうと思い、手に取った。

舞台は近未来。
本作の世界ではフリーテレビというメディアが存在する。
ツイッターYOUTUBEなどのSNSは一切ない。
そのため、国民はただただ一方的に、政府に情報を与え続けられている。

私自身びっくりしたのは、今では当たり前に存在するSNSがないだけで窮屈に思えた。
なぜならSNSがないと、我々国民が受け取れる情報は、テレビや新聞、雑誌など、企業が発信しているもののみ。
そのため、ちょっとでも政府が介入し、政府にとって都合の良い情報だけに改ざんされたなら、簡単に我々は政府に踊らされる。

SNSによる個人の情報発信がいかに重要であるかが再認識させられる。
しかし、ほんの数十年前まではネットが普及しておらずSNSも皆無だったので、恐ろしい話である。

本作のフリーテレビの存在意義は、所謂パンとサーカス
パンとサーカスは食料と娯楽を意味する。
刺激的な娯楽を提供し、夢中にさせることで、管理社会といった悪い政治体制をも無関心させる狙いである。

結論から語るが、本作はむちゃくちゃ面白かった。
フリーテレビでは、賞金を得るために貧民が凄惨なゲームに参加するきつい番組ばかり。
つまり、本作はデスゲームものに分類される。
金のない主人公は、娘の病気の治療費を稼ぐため、「ランニングマン」という競技に参加する。
内実、ただの人間狩り。
競技がスタートになった瞬間、主人公は犯罪者となる。
犯罪者である主人公を追う警察や、「ランニングマン」お抱えのハンターから逃げ切れば大金が手に入るというもの。
面白かったのが、一般市民も主人公を見かけたら通報しなければいけない。
そのため、誰が信用できるのか分からない疑心感との戦いも強いられる。

また舞台がアメリカ全土という広大さも良かった。
私はデスゲームものだと『バトル・ロワイアル』が最も好きな作品。
バトル・ロワイアル』は島を舞台に中学生約30人が命を奪い合う。
狭くはないんだが、やっぱりアメリカのすべてを範囲となるとスケールがダイナミックである。
フィールドが広い方が、より多くの戦略の可能性が広がるので、読者としてはワクワクさせてくれる。

いくつか不満点もあった。
明らかにプロットを作っておらず、場面場面でシナリオを作っていったんだろうな、という唐突感の強い展開もあった。
特に終盤は顕著だった。
少しくらいは伏線を入れて欲しかったところ。

とはいえ、最後のほうは想定外の展開もあったし、最終的な主人公の選択は個人的には好みだった。
キングの小説は設定だけが魅力的だけど、オチが微妙な作品が非常に多い。
でも本作は悪くないと思う。

私はスティーブン・キングの小説は何冊か読んできたが、読みづらい印象があった。
描写が冗長なのと、海外小説特有の癖のある文体が、なかなかスムーズ読み進められない。

だが、本作は翻訳の仕方が上手いのか、過去に読んだ作品と比べると明かに読みやすかった。
私が翻訳小説に読み慣れてきただけかもしれないが、にしても頭の中で映像が浮かびやすかった。
登場人物もそこまで多くないので把握しやすいのも良い。

キング初心者や翻訳小説初心者には推したい名作。

 


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バトルランナーの作品情報

■著者:スティーヴン・キング (リチャード・バックマン名義)
Wikipediaバトルランナー(ネタバレあり)
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