■評価:★★★★☆4
「ハニートラップをメインとした女スパイ映画」
【映画】レッド・スパローのネタバレなしの感想、レビュー、批評、評価
『コンスタンティン』『アイ・アム・レジェンド』『ハンガー・ゲーム』シリーズのフランシス・ローレンスによる2018年公開のスリラー映画。
【あらすじ】才能と美貌を併せ持ったロシアのバレリーナ・ドミニカは、演技中にパートナーとの接触事故を起こしてケガをしてしまい、演技者としての道を閉ざされてしまう。退院後、失意の中でかつてのパートナーの裏切り行為を知ったドミニカは復讐に走る。そんな彼女の別の才能を見出したロシア政府に勤める叔父ワーニャは巧みに追い詰め、スパロー(女スパイ)としてスカウトする。病気がちの母を助けるため、金が必要だったドミニカは仕方なく引き受けることに。
この映画を見ようと思ったきっかけは、「ハニートラップ」を駆使した女性のスパイ映画ものだったから。
あまり観たことのない鮮度の高い題材だし、何より男の私からしたらハニートラップというワードの魅惑さに轢かれてしまう。
実際に鑑賞していると、ハリウッド映画で良くみるような秘密の道具で見せる派手なアクションやコミカルな演出は一切ない、
シリアスな心理戦と人間ドラマが展開されるので、下心をへし折られた気分になった。
シリアスな映画ながら、魅力的なキャラクターが多かったのが良かった。
主演女優のジェニファー・ローレンスには良い意味で不完全な魅力を感じる。
バレエダンサーなのにやけに足が太い。
裸にもなるのだが、胸の形も特段優れているわけではない。むしろ垂れ気味。
しかしこの不完全さが彼女の魅力を引き出している。
VOGUEのインタビューによると、彼女はやはりエクササイズやダイエットは苦手だそう。
この映画は訓練としてヌードどころか、全裸で男を挑発するような刺激的なシーンが出てくる。
ヌードになることにも抵抗があったそう。
それでもこの映画に出たということだから、この作品の脚本には女優として心に刺さるものがあったんだろう。
女性が捨て身になって、強い敵に立ち向かうという構図は、男の私にとっても魅力に感じる。
彼女の振り切った演技は見ごたえがある。
特に、どのようにして男性を翻弄する技術を身につけていくのか、といった異様とも思える訓練の描写は見物だった。
また、彼女をスパイの世界に引きずり込んだ叔父も良い意味で憎たらしい雰囲気を醸している。
アクション俳優の坂口拓に似た、自信に満ちあふれた人を食ったような表情。
主人公のドミニカに話を戻す。
夢を持っているが怪我で駄目になり、別の道に行くという構造は漫画原作で、アニメ、映画にもなっている『恋は雨上がりのように』とまったく同じ展開。
アメリカではスパイになって人を騙しまくるのに対して、日本はファミレスの臭い店長に惚れる、っていう国民性の違いがはっきりと出ていて興味深い。
アメリカ人からすると、『恋は雨上がりのように』は不思議な映画に思えるんだろうなと勝手に想像してしまう。
『レッド・スパロー』は、国家という巨大な組織に女性が立ち向かう、という構造。
『恋は雨上がりのように』は、女性がケガという人生の節目と立ち向かう、という構造。
ただし、『レッド・スパロー』に関してはターゲットは女性ではない。
羊たちの沈黙のクラリスのように、女性=社会的弱者のような描写は見せていないため。
シンプルに、実際に女性のスパイ、または政治が絡むハニートラップの生々しさを楽しみたい人に刺さる映画。
というか、あまりにリアリティが凄すぎて、ハードに人をいたぶるシーンはなかなかえぐい。
『ホステル』というやばい映画がある。
そこまでではないにしろ、女性層を完全に捨てているようにも思えるくらいに強烈。
調べたら本来はもっとエグい描写が多いらしく、レーティングをR15に引き下げるために修正を施したイギリス版が、日本のソフトに収録されているとのこと。
あの淡々と痛々しいことを施すお仕事に従事する若い男もめちゃくちゃ怖い。
漫画『ベルセルク』が蘇った。
『ベルセルク』は中世ヨーロッパを下地にした「剣と魔法の世界」を舞台とするダークファンタジー。
特に評判の良い黄金時代編(3 - 14巻)のクライマックスにとんでもない描写がある。
トラウマレベルに強烈で、私も15年前に一度読んだだけなのに、今も尚、鮮明に記憶に残っている。
それに匹敵するレベルのどぎつい描写を本作では堪能できる。
何よりこの作品の特記すべきポイントは、原作小説の作者が元CIA捜査官であるということ。
主人公のドミニカはアメリカ人ではなくロシア人なのだが、映画.comのインタビューでは、「ロシアのスパイ訓練所は実際に存在して、そこでは若い女性たちが男を虜にする技術を叩き込まれていた」とのこと。
本作では冷戦時代のロシアのスパイ技術を描いているという。
映像的には、映画的というかアート色が強い印象。
これはフランシス・ローレンス監督の本職がミュージックビデオの監督だからだと思われる。
彼が2007年に手がけた『アイ・アム・レジェンド』のニューヨークの荒廃した世界観も非常に美しかった。
『アイ・アム・レジェンド』は、世界人口60億人のほとんどが死滅していく中で生き残った、ニューヨークでたった1人の生存者を描く終末物の映画。
あとはオーストリア出身っていうところで、ヨーロッパ圏という国民性も関係あるかもしれない。
ルックの印象としては『アメリカンビューティ』や、『007シリーズ』のサム・メンデス監督(イギリス人)作品に近いものを感じる。
見ている最中、「本当にハリウッド映画なのか?」と何度も疑問に思った。
私は日本人なせいか、スパイという題材にはあまりなじみを感じずに敬遠がちなのだが、この映画は今まで見てきたスパイ映画の中では一番好みだった。
スパイという特性を生かしたアクションではなく、病気の母に治療を受けさせるために、スパイになるしか道がなかった悲哀に満ちた女性を丁寧に描いているため。
踏み込んだ描写が多く見られるおすすめ作品はコチラ。
■アンダーニンジャ
■ビリーバーズ
■死刑にいたる病
レッド・スパローの作品情報
■監督:フランシス・ローレンス
■出演:ジェニファー・ローレンス ジョエル・エドガートン マティアス・スーナールツ シャーロット・ランプリング
■Wikipedia:レッド・スパロー
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家):47%
AUDIENCE SCORE(観客):49%
レッド・スパローを見れる配信サイト
U-NEXT:-
Hulu:-
Amazonプライムビデオ:○(吹替・有料)、○(字幕・有料)、○(Blu-ray)、原作はコチラ
Netflix:-
※2023年7月現在