映画『女神の継承』ネタバレなしの感想。タイ東北部の村の祈祷師一族の悲劇を描く

■評価：★★★☆☆3.5

「田舎の精霊」

【映画】女神の継承のレビュー、批評、評価

『チェイサー』『哀しき獣』『哭声/コクソン』のナ・ホンジンが原案、制作を務めた022年7月29日公開のタイ・韓国合作ホラー映画。

【あらすじ】小さな村で暮らす若く美しい女性ミンが、原因不明の体調不良に見舞われ、まるで人格が変わったように凶暴な言動を繰り返す。途方に暮れた母親は、祈祷師である妹のニムに助けを求める。もしやミンは一族の新たな後継者として選ばれて憑依され、その影響でもがき苦しんでいるのではないかー。やがてニムはミンを救うために祈祷を行うが、彼女に取り憑いている何者かの正体は、ニムの想像をはるかに超えるほど強大な存在だった……。

韓国映画界のヒットメーカー、ナ・ホンジンが絡んでいるということで、かなりの期待を持って鑑賞した。
ナ・ホンジンが監督を務めた作品はわずか３作品のみだが、どれもヒットさせている。
中でも好みなのが、『チェイサー』。

韓国のとある町で、夜の仕事をする女性が次々と失踪する。
すると、早々に、犯人らしき人物が警察に捕獲される。
夜の店を経営する主人公は、犯人らしき人物を尋問しつつ、消えたキャストの女性を捜索する、といったストーリー。

『チェイサー』はとにかく、手を抜かない痛々しい描写が印象的。
だが、私が本作を好きな一番の理由は、予想の斜め上を行くストーリー展開が挙げられる。
普通だったら、犯人を追い掛けるミステリーになりがち。
だが、本作は、早々に犯人らしきが捕まるっていう流れは面白い。
そこからは主人公は、犯人らしき男との心理戦が始まる。

『哀しき獣』もしかりだが、ナ・ホンジン作品には、キャラクターとストーリー展開の魅力がある。
よって、『女神の継承』も同じ要素を期待した。

『女神の継承』は雰囲気が抜群だった。
まるで、昭和初期を思わせるひなびたタイの田舎町が舞台。
田舎らしく、町民たちは精霊という存在を心から信じているのだ。

本作はフェイクドキュメンタリーの演出法で撮影されている。
登場人物たちがビデオカメラを認知しているドキュメンタリー調だが、実際はフィクションといった方法。
臨場感を出す目的で取られる手法である。

冒頭がとても印象的だった。
主人公である霊媒師のニムは、「病気にかかった人は私を訊ねてくる。だから治療するの」といった内容を語る。
面白かったのは、カメラマンはこう訊ねる。
「すべての病気を治せるんですか？　例えば癌とか」と。
良い質問である。
観客からしても、『精霊なんて本当はいないだろ』と思っているから。

するとニムは笑ってこう答える。
「実際の病気は無理よ。悪霊による病だけ治せるの」

何だか、この回答が妙にリアルに感じられて良かった。
ドキュメンタリックな演出と相俟って、やたらと生々しい。

あとラストのインタビューも良かった。
もうクライマックスに向けて、事態が悪化していく。
もう一展開あって欲しいまま、何もなく、終わってしまった。
だが、ラストに挿入されたとある人物のインタビューは、鑑賞後に余韻を与えてくれる。
この１シーンのせいで、物語について色々と考えてしまうのだ。
これから鑑賞する人は、ぜひとも楽しみにしてもらいたい。

微妙だと思ったのが、キャラクターの多さ。
かなり登場人物が多く、各々の関係性が分かりづらかった。
誰が誰の子供で、誰が親で……といったことをつい考えてしまった。
私のＩＱが低いだけかもしれないが、もう少しシンプルに登場人物を配置してくれたほうが見やすかった。

あと、終盤に向けて深刻化していく流れも、鮮度は低め。
何かしらの新しい演出なりを加えて欲しかった。
本作は所謂、悪霊系だが、今の時代、この悪霊の見せ方は平凡すぎる。
ナ・ホンジンらしいグロテスクさがあるだけ。

とはいえ、雰囲気作りは素晴らしく、嫌いではない１作だった。
ホラー映画好きには勧めたい。

田舎が舞台のスリラー・ホラー映画のおすすめ品はコチラ。

■ガンニバル

movies-ocean.hatenadiary.com

女神の継承の作品情報

■監督：バンジョン・ピサンタナクーン
■出演者：ナリルヤ・グルモンコルペチ
サワニー・ウトーンマ
シラニ・ヤンキッティカン
ヤサカ・チャイソーン
■Wikipedia：女神の継承（ネタバレあり）
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家)：79%
AUDIENCE SCORE(観客)：72%