■評価:★★★★☆4
「アガサ・クリスティに捧ぐ」
【小説】カササギ殺人事件のレビュー、批評、評価
『メインテーマは殺人』『その裁きは死』『ヨルガオ殺人事件』『殺しへのライン』のアンソニー・ホロヴィッツによる2018/9/28に刊行された推理小説。
【あらすじ】1955年7月、パイ屋敷の家政婦の葬儀がしめやかにおこなわれた。鍵のかかった屋敷の階段の下で倒れていた彼女は、掃除機のコードに足を引っかけたのか、あるいは……。その死は小さな村の人々へ徐々に波紋を広げていく。消えた毒薬、謎の訪問者、そして第二の死。病を抱えた名探偵アティカス・ピュントの推理は――。
2019年の本屋大賞の翻訳小説部門で一位となっている。
新人賞から権威ある賞まで、小説作品を対象とした賞は無数に存在する。
個人的には数ある賞の中でも、本屋大賞の受賞作品の本の面白さは、信頼を置いている。
例えば、有名な直木賞や芥川賞がある。
これらの賞に受賞するだけで受賞作はヒットする権威ある賞である。
だが、出版社が主催していているため、その出版社がその時に売りたい本が受賞する傾向が強い。
つまり、直木賞と芥川賞を主催する文藝春秋以外から刊行された本は受賞しにくい。
また、芥川賞と直木賞の審査員はプロの小説家。
作家の視点で素晴らしいとされる作品が受賞する。
一方で私が大好きな本屋大賞は全国の書店員が入れたポイントで受賞が決まる。
小説家と比べ、読者に近いマインドを持つ書店員が認めた本なので、読者も楽しみやすい本が多いイメージ。
また、出版社が主催ではないので、実にバラエティに飛んだ作品がノミネートされる。
で本作は、本屋大賞の一位を獲得したなので、かなりの期待をもって手に取った。
実際には、本屋大賞以外にも以下のランキングで1位を獲得している。
『このミステリーがすごい! 2019年版』第1位
『週刊文春ミステリーベスト10 2018』第1位
『ミステリが読みたい! 2019年版』第1位
『2019本格ミステリ・ベスト10』第1位
とんでもない実績を獲得したものだと思う。
本作は、上下巻構成となっている。
上巻は至って普通のミステリー。
怪しげな館に働く掃除婦の女性が密室の中で命を落とす。
事件解明のため、ベテランの探偵が事件解決に奔走するという内容。
まるで探偵小説の教科書でも読んでいるような感覚に陥った上巻の率直な感想は、普通だった。
特に主な特徴はない。
強いていうなら、探偵が病気で余命幾ばくもない、という設定くらい。
猫写は緻密ですばらしい文章だと思う。
だが、それだけ。
本屋大賞の一位に君臨するレベルには達していないな、というのが素直な思い。
何なら、内容だけいうとそんなに面白くない。
雛形通りのシンプルすぎるミステリーだし、特段、魅力的なキャラがいるわけではない。
だいぶ、時間をかけて上巻を読み切り、重い腕を持ち上げて下巻を開いた。
頭を隕石が直撃したかのような衝撃だった。
というのはさすがに言い過ぎだが、なるほどと。
なぜ本作がここまで小説界隈で話題になったのか納得である。
下巻について少しでも触れると、本作の面白さが欠けてしまうので敢えて伏せておく。
これから読む人は、頑張って大して面白みのない上巻を突破して欲しい。
私は3週間くらいかけて上巻を読み切ったのに対し、下巻は面白過ぎて3日で読んでしまった。
普段、私は月に3〜4冊程度しか読めない遅読タイプなので、3日は相当早いと思う。
欠点でもないのだが、懸念点をいうなら、正統派ではない演出・展開なので、好みは別れそう。
あと、正統派じゃない手法はインパクトがあるので、今後の作家人生に影響が出そうなのでどうなんだろうかなと思う。
なぜなら読者は、その小説家に対して、前作を越えるインパクトを期待するから。
その期待に応えられないと、作家の信頼度が落ち、人気に影響する気がする。
例えば、映画でいうと、「シックス・センス」のMナイト・シャマランはまさにそんな感じ。
「シックス・センス」自体、作りは正統派だけど、あまりにどんでん返しが強烈だったので、Mナイト・シャマランのその後の作品はパッとしない印象。
ただ本作は斬新な物語にするため、十五年の構想を経て完成に至ったそう。
確かに面白いのでそれだけの膨大な時間を掛けた価値はある。
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