映画のくれた時間

約1500本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます(たまにアニメ・ドラマ・小説も)。面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

映画『君たちはどう生きるか』ネタバレなしの感想。少年が母を探しに「下の世界」に向かう

■評価:★★★☆☆3.5 

 

君たちはどう生きるか



【映画】君たちはどう生きるかのレビュー、批評、評価

 

ルパン三世 カリオストロの城』『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』『魔女の宅急便』『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』の宮崎駿監督による2023年公開のアニメ映画。

 

【あらすじ】太平洋戦争中の1943年、牧眞人は空襲で実母・久子を失う。3年後、軍需工場の経営者である父親の正一は久子の妹、夏子と再婚し、眞人は母方の実家へ工場とともに疎開する。疎開先の屋敷には覗き屋のアオサギが住む塔がある洋館が建っていた。自室で寝ていると、アオサギが眞人の部屋に入り込み、外に逃げていく。木刀を持って追い掛けると、アオサギに「母があなたを待っている。死んでなんかいませんぜ」と話しかけられる。

 

風立ちぬ』の公開後、2013年9月に当時72歳の宮崎駿監督は長編映画制作から引退すると発表する。
約4年後の2017年1月29日にNHKで放送されたドキュメンタリー『終わらない人 宮崎駿』にて、宮崎駿が長編企画書を 鈴木敏夫に提出するシーンが映る。

この映像を見て、多くの宮崎駿ファンは歓喜したのではないだろうか。
私もファンの一人としてものすごく嬉しかったし、興奮した。

翌月2017年2月、宮崎駿長編映画制作に復帰すると発表される。
同じ年の10月28日、新作のタイトルが『君たちはどう生きるか』と発表される。
2022年12月13日、本作の公開日が2023年7月14日に決まる。
迎えた公開日初日。
10年ぶりの宮崎駿新作長編映画である。

正直、不安はある。
というのも、元々スタジオジブリは多くの企業の出資による制作委員会制度を取って映画を制作されることがほとんどだった。
多くの企業が金を出し合い、リスクを分散して安全に映画を制作するというもの。
制作委員会制度はデメリットもある。
例えば、出資企業のイメージが崩れるといった理由で、脚本に口出しが入るケースがあるという。
更には、出資企業もボランティアではなく、営利目的でやっているので、公開前にはCMなり、劇場での予告映像なり、多くの宣伝が入る。

今回『君たちはどう生きるか』は、プロデューサーである鈴木敏夫は制作委員会制度を止め、ジブリ一社のみで制作し、宣伝も一切行わないと宣言した。
予告はもちろん、声優も、何ならあらすじまで非公開だった。
徹底した秘匿が、ある種のエンタメとして楽しませてくれたのが本作である。

不安の理由なのだが、初期に比べ、後期の宮崎駿監督作品は大衆性に欠けてきているためである。
具体的には『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』『崖の上のポニョ』『風立ちぬ』は、ストーリー展開が難解で、分かりやすい面白さはない。
直近の『風立ちぬ』に関しては、キャラクターもストーリーもまったくもって魅力的ではなかった。
宮崎駿が高齢になってきているため、大衆の感覚が失われてきているんだろうなと、個人的には思っている。
本作は、冒険活劇ファンタジーという情報だけはある。
まるで『ルパン三世 カリオストロの城』や『天空の城ラピュタ』を連想させるジャンルではあるが、間違いなく、この2作品のような面白さを見せてはくれないだろうと、覚悟して池袋のTOHOシネマズに足を運んだ。

空襲のサイレンの音から物語は始まる。
戦時中の日本が舞台で、主人公の少年・眞人は空襲で母を失い、心に闇を抱えることになる。
新しい母・夏子の実家に疎開すると、謎の喋るアオサギと出会う。
夏子が姿を消し、喋るアオサギに誘われるように下の異世界に向かい、夏子を捜索するのが、本作のメインストーリー。

まず思ったのが、手書きアニメーションの温かさ。
冒頭から、滑らかで質感のある手書きアニメならではの心地良い動きが観ていて癒やされる。
正直、古さはあった。
今のデジタルで作られるパキっとした映像ではないので、ノスタルジックな雰囲気はある。
だが、宮崎駿作品には映像的新しさは求めていない。
小さい頃なら繰り返し見続けてきた『ルパン三世 カリオストロの城』『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『魔女の宅急便』のような手に触れてみたくなるような温かい質感に再び出会えて嬉しい。
何だか映像を見ているだけで実家の雰囲気を連想した。
やっぱりジブリ映画は子供の頃、実家で一番良く鑑賞したから。
大人になると、どうしても実写映画ばかり観る機会が増えるし、一度鑑賞した映画を繰り返し観ることは少ない。
ましてはすでに何度も鑑賞したジブリ映画は、何かきっかけがない限りは観ない。

演出も細かかった。
例えば冒頭、自転車タクシーに夏子と眞人は乗る。
乗り込むときの座る部分の重量感のある軋む音とか、異様に気合いが入っていて生々しい。
家に帰る道中で、眞人がちゃんと付いてきているかを確認するために夏子がチラっとさりげなく首だけ振り向いたり、屋敷への帰宅時の夏子と眞人の履き物の持ち方の差異など、序盤の静謐なシーンでの丁寧な作り込みは、宮崎駿っぽいなあと思って、見入った。

良い箇所だけをつらつらと述べてきたが、鑑賞後の率直な感想としては、「難しい」だった。
中盤以降、下の世界に向かうのだが、正直、良く分からない。
下の世界ではどういうルールが存在するのか、まったくもって説明がされずに、どんどんストーリーだけが前に向かって進行していく。
そのため、観客は意味が分からずに、どんどん展開を見せられていく状態。

ルールであったり、現状どうなっているかの説明を全部入れたら3時間くらいになるけど、ばっさりと削って2時間にきゅっとまとめたイメージである。
そのため、キャラの距離が縮まるのがやたらと早く感じる箇所もある。
また、眞人がやけに、目の前で展開されるぶっ飛んだ展開を受け入れるのが早い気がする。
本来なら、もっとビビるだろ、と思う。

物語の構造は、『千と千尋の神隠し』とまったく同じである。
昭和初期の現実の世界から、母を探しに異世界に向かい、成長し、再び現実に戻ってくる。
異世界での冒険は、良く意味がわからなかったけど、往年の宮崎映画の既視感のある演出や展開も多くて、映像的には楽しめた。

あと、久石譲の音楽も良かった。
ピアノの旋律でミステリアスな雰囲気を上手い具合に演出してくれた。
何となく、TVゲームの『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』を思い出した。
ゼルダの伝説』は謎解きがメインのアクションRPGである。
そのため、ミステリアスな雰囲気が全編に漂っている。

分かりやすい映画ではないので、賛否の分かれる映画になるだろうなと思う。
興行成績としても100億はいかないように思える。
とはいえ、カタルシスはあるので鑑賞後感は良い。
公開初日の翌日7月15日に鑑賞したため、満席だったにも関わらず、エンドロールで席を立つ人は誰もいなかった光景は印象的。
普通の映画なら、何人かは席を立つし、実際に私もその一人。
だが、米津 玄師の歌に包まれたブルーのエンドロールは不思議と観ていられたし、余韻に浸りたかった。

恐らく年齢的にも最後になる宮崎駿映画なので、劇場まで観に行った価値はある。
とかいいつつ、もう1本くらい、作ってくれそうな気はするが。

 

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君たちはどう生きるかの作品情報

■監督:宮﨑駿
■出演者:山時聡真
菅田将暉
柴咲コウ
あいみょん
木村佳乃
木村拓哉
竹下景子
風吹ジュン
小林薫
滝沢カレン
阿川佐和子
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※2023年7月現在