映画『ハッチング孵化』ネタバレなしの感想。母に抑圧された少女が森で謎の卵を拾う

■評価：★★★★☆4

「親への反抗」

【映画】ハッチング孵化のレビュー、批評、評価

2022年公開のフィンランド制作のホラー映画。

舞台は北欧フィンランド。12歳の少女ティンヤは、完璧で幸せな自身の家族の動画を世界へ発信することに夢中な母親を喜ばすために全てを我慢し自分を抑え、新体操の大会優勝を目指す日々を送っていた。ある夜、ティンヤは森で奇妙な卵を見つける。家族に秘密にしながら、その卵を自分のベッドで温めるティンヤ。やがて卵は大きくなりはじめ、遂には孵化する。卵から生まれた‘それ’は、幸福な家族の仮面を剥ぎ取っていく・・・。

ネットやＳＮＳで評判が良かったので鑑賞した。

公式ホームページには、本作を「戦慄の北欧イノセントホラー」との表現がされている。
北欧映画自体、マイナーだし、よっぽどの映画ファンじゃないと鑑賞はしないと思われる。
だが、名作はいくつか存在する。

北欧ホラーで連想するタイトルは、こちらも公式には書かれているが『ぼくのエリ 200歳の少女』『ボーダー　二つの世界』が挙げられる。
私は両方とも鑑賞したが、味わいのある興味深い内容だった。
『ぼくのエリ 200歳の少女』はスウェーデン制作の作品で、主人公の家の近くに越してきた少女が、200歳のヴァンパイアという設定。
設定の時点で、引き込まれる内容だった。
ヴァンパイアなので、血を吸わないと生きることができない。
主人公は彼女に恋をするのだが、ヴァンパイアである事実を知り……といった展開である。
先の想像がまるで読めない良作。
というか設定が魅力的すぎる。
確か、俳優兼ミュージシャンの福山雅治も絶賛していた気がする。
ハリウッドでも、ヒットガールでお馴染みのクロエ・グレース・モレッツ主演で『モールス』というタイトルでリメイクが制作されている。

『ボーダー　二つの世界』もスウェーデン映画。
生まれ持った特殊な嗅覚を活用して、国境フェリー税関職員として働く女性の話。
彼女は見た目が異形で、人とは違う。
社会から孤立する彼女が、自分の出生の秘密を知り……といった内容。

『ハッチング孵化』もそうなのだが、ハリウッド製のホラーとは違って、キャラクター描写が非常に繊細。
ホラー映画であるが、静謐な世界観で、じっくりとキャラクターの成長・変化が描かれる。
そのため、コアな映画ファンに好まれる映画といった印象である。

イノセントホラーといった表現も素晴らしいなと思う。
まさに本作の主人公は恋愛もしたことないような純粋無垢な少女。
母を喜ばせるため、自分を押し殺し母の言いなりになる傀儡である。

子供にとっては学校と家が世界のすべて。
だから主人公が言うことを聞いてしまうのは仕方がない。

そんな中、彼女は森で見つけた卵を持ち帰る。
母への初めての反抗といわんばかりに、母に内緒で、こっそり温めて育てるのだ。

私が素晴らしいと思ったのは予想だにしない展開が挙げられる。
何とも不気味な異形の生き物が孵化して育て上げる。
ただ、それだけに留まらない。
展開は更にもう一歩踏み込んでいるのが素晴らしかった。

伏線も丁寧に張り巡らされていて、後半にしっかりと回収されていく。
まるで読めない展開で、あっという間にエンドロールを迎えていた。

イノセント（潔白な・純潔な）な少女が主人公なので、個人的には恋愛要素があっても良かったと思った。
例えば、私の好きなジブリ作品に『魔女の宅急便』がある。
13歳のイノセントな少女キキが、初めて親元を離れて一人暮らしをする。
慣れない環境に併せて、自分のことを好いてくるトンボという男が登場する。
どう対応していか分からず、次第にキキはメンタルが崩れ、魔法が使えなくなる。

初めて経験する恋愛によって、自分らしさが崩れ、痛みを乗り越えて成長する姿はついつい見入ってしまう。
本作にも取り入れてほしい要素だった。
ただ本作は母との関係をテーマとして描いているので、あえて恋愛は排除したんだろうなと思った。

グロテスクなシーンもあるので、嫌悪感を示す人は多いと思う。
だが、シナリオは良くできているので映画好きには勧めたい。

キャラクターのディティールが細かいホラーのおすすめはコチラ。

■死刑にいたる病

movies-ocean.hatenadiary.com

ハッチング孵化の作品情報

■監督：ハンナ・ベルイホルム
■出演者：シーリ・ソラリンナ
ソフィア・ヘイッキラ
ヤニ・ヴォラネン
レイノ・ノルディン
■Wikipedia：ハッチング孵化（ネタバレあり）
■映画批評サイト「rotten tomatoes」によるスコア
TOMATOMETER(批評家)：92%
AUDIENCE SCORE(観客)：61%