映画のくれた時間

約1500本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます(たまにアニメ・ドラマ・小説も)。面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

夏に観たい映画8選

 

暑い陽気になってくると、夏を感じられる夏映画を観たくなる人は多いと思う。
四季のある日本では、季節ごとに様々なイベントが行われる。
とりわけ夏は他の季節と比べてイベントが多い。
風鈴、スイカ、海、プール、花火、屋台、祭り、肝試し、といった連想ワードも溢れ出てくる。
夏が、主人公の成長や変化に大きく関わってくるのが夏映画となる。

すでに多くのサイトで夏映画ランキングなどは作成されている。
スタンド・バイ・ミー』とか『菊次郎の夏』とか、アニメだったら『サマーウォーズ』やジブリ映画など、すでに他サイトで挙げられがちなタイトルを省き、当サイトの色を強く出していこうと思う。

今から選出する作品を一言で『夏映画』と表現するのは若干、不親切だと思う。
まだ、何をもって夏映画と定義するの? と突っ込む人もいると思うから。
以下の3つのポイントの観点で夏映画指数を設定した。

 

夏映画ポイント3点

①夏が舞台
②一夏の思い出感
③青春

①番は当然のことだけど、夏が舞台だからこそ、その作品を観て夏を感じられる。
夏という季節限定の、二度と経験できない一度きりの体験を描いているかどうかが、②番。
上記でも記載したような海とかお祭りとか、夏らしい何かが物語の進展に絡んでくることが、夏映画指数を高めるには重要である。
また夏特有のイベント以外でも、夏だからこそ行いがちな題材が描かれていれば、②番に該当する。
詳細は作品の中に記載する。
最後の③番の青春は、人によって解釈が異なる。
十代の学生時代に恋愛したり、部活で頑張ったりした経験を青春と表現する人が多い。
以前、ラッパーで映画評論の活動もしている宇多丸さんは「青春は、無限の可能性が開かれている状態」と定義していた。
むっちゃしっくりする。
当サイトでも宇多丸さんの青春論を採用する。
なぜなら、30代でも60代でも青春は存在する。
無限の可能性をつかみに行く体験は、すべて青春だ。

これらの3つのポイントを踏まえ、おすすめの夏映画を挙げていきたい。
ランキング形式にしようと思ったが、どれも夏を感じられるので同列で8選として紹介する。

『さよならくちびる』

①夏が舞台:★★★★★
②一夏の思い出感:★★★★★
③青春:★☆☆☆☆

【あらすじ】路上で演奏していた孤独な若い女性の2人がデュオを組み、ライブハウスを一杯にするまでに成長する。そんな2人を支えてきた元ホストのマネージャーの男性。順調に思われた3人の関係だったが、いつしか危うさを孕み始める。そしてついに解散を決意した2人は、彼とともに最後の全国ツアーへと旅立つ。

いわゆるロードムービーである。
ロードムービーは主人公が旅の中で成長する物語を指す。
夏休みというまとまった時間があるタイミングで旅や旅行を楽しんだり、留学を経験する人は多い。
そのため、『スタンド・バイ・ミー』を始めとする多くのロードムービーは夏が舞台になっている。

本作は、青春感が乏しい。
青春が無限に開かれた可能性の状態を指すならば、本作は可能性を閉じるための旅となっている。
そのため、物語全体に悲哀が感じられる。
夏といえばポジティブな空気感が欲しいのだが、哀愁は一夏の思い出には重要な要素である。

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『バジュランギおじさんと、小さな迷子』

①夏が舞台:★★★☆☆
②一夏の思い出感:★★★★★
③青春:★☆☆☆☆

【あらすじ】宗教的・政治的に激しく対立する隣国同士のインドとパキスタンを舞台に、インドの気のいい青年が、迷子になったパキスタンの少女を無事に母親のもとへ送り届けようと、宗教の壁を越えて奮闘する心温まる二人旅を描いたハートフル・ストーリー。

本作の季節は不明なのだが、主人公らが長袖を着ているので、夏ではないと思われる。
だが、晴れた荒野を旅しているので、どこか映像に夏感を得られる。

また、少女を送る届ける旅というのも良い。
なぜなら少女を母親の元に返したら、二人はお別れになる儚さがある。

夏といえば、哀愁だ。
夏という瞬間的な熱は、時間と共に必ず冷める。
大きな落差が、どこか切なさを醸している。

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ザ・ピーナッツバター・ファルコン』

①夏が舞台:★★★★★
②一夏の思い出感:★★★★★
③青春:★★★★★

【あらすじ】養護施設で暮らすダウン症の青年が、ある日施設から脱走する。一方、兄を亡くし、孤独な日々を送る漁師の男。2人は偶然出会い、行動を共にし始める。そこへさらに、施設から追いかけてきた看護師の女性が現れる。不思議な絆で結ばれていく3人。それぞれの日常からの逃避行は、やがて思いがけぬ冒険へと変わっていく。

本作もロードムービー
というか、今回、選出した作品群のほとんどロードムービーである。
どうしても旅は一夏の思い出感が強烈に感じられるので仕方がない。

本作は青春感も強い。
なぜなら、主人公のダウン症の青年は、プロレスラーになる目標があるから。
旅の目的は、主人公がプロレスラーになるため、プロレス道場を目指す目的がある。
果たして主人公は目的を果たすことができるのだろうか。
夏映画指数MAXの最高の映画である。

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純喫茶磯辺

①夏が舞台:★★★★★
②一夏の思い出感:★★★☆☆
③青春:★★★☆☆

【あらすじ】磯辺咲子は、離婚した父の裕次郎と時にいがみあいながら暮らしている。ある日、裕次郎が死んだ父の遺産を元手に純喫茶を開業。そのあまりにダサい内装やセンスに驚き、抗議する咲子だったが、父が鼻の下を伸ばして夢中になっている尻の軽い店員の菅原素子らと共に店を切り盛りする中で、父子関係にも変化が生じ始める。

茶店をする映画なので、夏らしさは特にない。
だが、昭和感の強いレトロな喫茶店なので、夏も相俟ってどこか海の家感があるのだ。
私は一時期、夏が来る度に鑑賞していた。

あと、娘の磯辺咲子の淡い恋が描かれるのも良い。
彼女の青春はなかなか強烈な後味を迎えることになるのだが。

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シェフ 三ツ星フードトラック始めました

①夏が舞台:★★★★★
②一夏の思い出感:★★★★★
③青春:★★★☆☆

【あらすじ】ロサンゼルスの一流レストランで総料理長を務める男は、オーナーと衝突して店をやめてしまう。そんなある日、絶品のサンドイッチとめぐり会った彼は、フードトラックでの移動販売をすることを決意。家族や友人らと共にアメリカを横断する。


本作の一番の夏ポイントは、フードトラックで販売されるサンドイッチである。
夏という舞台も相俟って、まるで、屋台でウマイ飯を食っているような感覚に陥るのだ。

本作は、別れた女房との間の子供も一緒にアメリカ横断の旅をする。
目的地に着けば、親権を持つ女房に子供を返さなければならない。
だからこそ、旅の道中で息子や仲間と共にサンドイッチを作る経験は、最高の一夏の思い出になる。

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百万円と苦虫女

①夏が舞台:★★★★★
②一夏の思い出感:★★★★★
③青春:★★★★☆

【あらすじ】主人公の鈴子がひょんなことから前科持ちになってしまい、百万円貯まる毎に見知らぬ町に移り住み、生活をリセットしていくヒロインを演じたオムニバス風コメディ・ドラマ。


海の家でバイトをしたり、桃農家で桃の収穫を手伝ったり、一夏の思い出感満載である。
特に本作は恋愛要素が素晴らしい。
男絡みで失敗し、前科持ちとなった主人公の鈴子は、旅の道中でも多くの男と交流することになる。
男は絶対に信用しないと心に決めたにも関わらず、男の魅力的な面を目の当たりにし、ついには心を揺らす存在が現れる。

鈴子の男に対しての心の変化を丁寧に描いているのが、一番好きなポイント。

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ディスタービア

①夏が舞台:★★★★★
②一夏の思い出感:★★★★★
③青春:★★★★★

【あらすじ】主人公ケイルは父親を交通事故で亡くしたショックから自暴自棄になってしまい、ある日学校で教師の一人を殴ってしまう。その罪を問われた彼は、3ヶ月間の自宅軟禁処分を裁判所から言い渡される。足首に監視システムを付けられ、自宅から出ることができなくなった彼は、暇つぶしに近隣住民への覗きを始める。隣の家に越してきたアシュリーや親友のロニーを誘って、覗きに没頭していたある日、裏手に住んでいるターナーが行方不明事件の容疑者ではないかという疑いを持つ。

個人的に最強の夏映画の一つ。
主人公は有り余った時間を使って、探偵ごっこをする。
青春といえば、無限に開かれた可能性を追い求める歪な万能感が挙げられる。
若気の至り、と表現される無鉄砲さには波乱の香りがする。

恋愛あり、犯人に近づく肝試し要素ありの最高の夏映画。

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『天国の口、終りの楽園』
①夏が舞台:★★★★★
②一夏の思い出感:★★★★★
③青春:★★★★★

【あらすじ】フリオとテノッチは高校を卒業したばかりの17歳。各々のガールフレンドがヨーロッパへのバカンスでいなくなり、性欲を持て余していた。テノッチが有力政治家の息子ということもあり、財布に余裕がある2人は友人たちとパーティーを開いては酒やクスリ三昧で遊び呆けていた。ある夏の日、2人はテノッチの親戚の結婚式で、彼の従兄弟の妻である美しいスペイン人女性ルイサに出会う。彼女の気を引くために口から出まかせで言った「天国の口(Boca del cielo)」というビーチの話を最初は鼻であしらうルイサ。しかし、彼女の夫が突然、電話で不倫していたことを告白、ルイサはショックを受け泣き崩れる。そして2人に「天国の口」へ連れて行くように頼む。

10代の精力むんむんの男が人妻と旅をするなんて、無限の可能性どころの騒ぎじゃない。
すべての男の夢を描いたような作品である。

しかも本作が良いのは、やたらと品がある。
邦画だと、本作のようなプロットは下品なコメディ映画に振ってしまうだろう。
知能の低そうなバカみたいな学生が、卑猥な言葉も漏らし、涎を垂らし、人妻に襲い掛かろうとする。

だが、本作に出演する若かりしガエル・ガルシア・ベルナルであったり、登場する人物はみんな気品に溢れている。
メキシコの海も映像も美しいし、一夏の思い出感満載の哀愁もしっかりと描かれている。
そのため女性が鑑賞しても楽しめると思う。

余談だが、本作の監督は『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』『ゼロ・グラビティ』『ROMA/ローマ』のアルフォンソ・キュアロン


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夏映画のあとがき

今回、選定した作品のシナリオはシンプルで分かりやすい映画ばかり。
映画ファンだけではなく、すべての人に鑑賞していただき、夏を感じて貰いたい。
そして来年以降も夏が来る度に、映画に登場する連中と再会を果たしていただけたら何よりだ。
映画の登場人物の姿・形が変わらないって素敵だと思う。