映画のくれた時間

約1500本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます(たまにアニメ・ドラマ・小説も)。面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

小説『異星の客』ネタバレなしの感想。火星で生まれ育った男を描く

■評価:★★★☆☆3

 

「自由を謳歌することの難しさ」



【小説】異星の客のレビュー、批評、評価

 

夏への扉』『宇宙の戦士』『月は無慈悲な夜の女王』のロバート・A・ハインラインによる1961年刊行(本国アメリカにて)のSF小悦。

 

【あらすじ】宇宙船ヴィクトリア号が連れ帰った“火星からきた男”は、第一次火星探検船で生まれ、火星に生き残った唯一の地球人だった。この宇宙の孤児をめぐってまき起こる波瀾のかずかず。円熟の境にはいったハインラインが、その思想と世界観をそそぎこみ、全米のヒッピーたちの聖典として話題をまいた問題作。ヒューゴー賞受賞大作!(Amazon引用)

 


アニメ、映画評論、人生相談を得意とする岡田斗司夫YouTubeで本作について言及していたため、読むに至った。
当該動画は下記となる。

https://youtu.be/DdNsXD2rq2A?si=ETiNrr7aG1oJ3-4k

笑いの本質について、本作を引用して語っているのだが、回答はネタバレになるかと思われる。
あなたが『異星の客』を読む予定であれば、読了後に上記の動画を鑑賞することをおすすめする。

「なぜ人は笑うのか」について、考えたことはあるだろうか。
我々は生きていると、無意識に感情表現している。
そのせいか「なぜ笑うのか」を、私は疑問に思ったことはない。
岡田斗司夫の動画を見て、本著を拝読した後、改めて考えてみたので、その結果については最後に書こうと思う。

話を小説に戻す。
かつて火星探索をし、音信不通となったアメリカ人クルーが、火星で産んだらしい子供を地球に連れて帰るシーンから物語は始まる。
マイケル(通称マイク)という名の彼はなんと、火星人に育てられている。
そのため、地球人とはまるで異なる倫理観や価値観を持つ不思議な青年。
何ならとんでもない能力をも有している。
どういった力かは伏せておくが、マイクと関わることで変化していく登場人物たちが描かれるのが、本作のメイン。

冒頭から無茶苦茶面白い。
マイクは最初は言葉がほとんど話せない。
話せないながらに言葉を無理くり捻り出してるんだが、内容が支離滅裂で可愛い。
限られた人間以外は接触どころか、姿すらも政府に隠され、厳重に匿われている。
そういった事情もあり、本当に火星人に育てられたような妖艶さがムンムンと漂っている。
主人公の一人となる看護師のジルが、マイクが隔離されている部屋に侵入する展開は、物凄くワクワクさせられる。
マイクは特に女性との接触は避けられている。
初めて地球人の女子を目の当たりにて、どんなリアクションを取るのか、ドキドキさせられる。

独特な火星語の存在も面白い。
頻繁にマイクらが口にする『認識(グロク)する』。
深く理解することを意味している様子。
『水兄弟』という言葉も可愛い。
マイクと同じコップの水を飲むと、水兄弟になれる。
反社会的な組織の連中が、古い慣習で酒の入った盃を交わすと家族になる、みたいな考え方とまるで同じニュアンス。
マイクは水兄弟に対して特別な思い入れを持っている。

とにかく冗長なのは気になる。
ハインラインの小説は文体の癖が強く、読みづらい。
SFを本格的に読み出した当初に手に取った『月は無慈悲な夜の女王』は本当に読みづらかった。
SF初心者にはあまりに難易度が高い小説で、苦労して2ヶ月くらいかけて読み切った記憶がある。
本作も778ページと、とんでもない大長編にも関わらず、スムーズに読み難い文章に、意味があるのか不明な冗長な展開が多くを占める。
読者が最も興味がある、マイクがまるで出てこないシーンも多いので、読んでいて心が折れそうなときもあった。
実際、ハインラインは本作の完成稿は当初80万字だったそう。
編集に長いとダメ出しされ、22万字に削り、まだ長いと言われ、現在の17万字になったそう。
正直、もっと削っても良いと思う。
本作は読了するのに3週間は掛かった。

ストーリーは、なかなか理解し難い難解な内容ではあるが、岡田斗司夫が語った笑いの本質にマイクが気づいた瞬間、物語が大きく動き出すら展開は面白い。

本作で語られた内容は伏せておくが、私が思う笑いの本質は安心感を得るためだと思う。

例えば、お葬式のような緊張感があるシチュエーションで笑いたくなるとき。
仕事に疲れ、何もする気が起きないときに、テレビをつけ芸人がアホな行動を見せつけてきたとき。
あるいは、ふとした瞬間、自分や友達の滑稽な言動を思い出したとき。
安心感への渇望が、笑いの本質であり、生きる上で必要な心を安寧を保つ手段なのだろう。

 

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異星の客の作品情報

■著者:ロバート・A・ハインライン
Wikipedia異星の客
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