■評価:★★★☆☆3.5
「マイノリティが豊かに生きるのは何かと大変」
【映画】正欲のレビュー、批評、評価
『桐島、部活やめるってよ』『何者』の朝井 リョウによる小説を原作とする、2023年11月10日公開のドラマ映画。
監督は『あゝ、荒野』『前科者』の岸善幸。
【あらすじ】横浜に暮らす検事の寺井啓喜は、不登校になった息子の教育方針をめぐり妻と衝突を繰り返している。広島のショッピングモールで契約社員として働きながら実家で代わり映えのない日々を過ごす桐生夏月は、中学の時に転校していった佐々木佳道が地元に戻ってきたことを知る。大学のダンスサークルに所属する諸橋大也は準ミスターに選ばれるほどの容姿だが、心を誰にも開かずにいる。学園祭実行委員としてダイバーシティフェスを企画した神戸八重子は、大也のダンスサークルに出演を依頼する。(映画.com引用)
公開当時、映画垢のXで評判が良かった印象があった。
ドラマ版『三体』目的でNetflixに入会したところ、タイミング良く配信されていたので鑑賞に至った。
タイトルは、同じ読み仮名である性欲と何らかの関連がある意図が含まれているように感じた。
冴えない日々を送る派遣のアラサー女性の夏月の視点から物語は始まる。
家具屋で働く夏月は、毎日、妊婦の客にダル絡みされ、うんざりしている。
どうやら人との交流が苦手そう。
家に帰ると、川のせせらぎの動画で癒やされ、寝る前には水に浮かぶイメージで自らの肉体を慰めている。
不思議な行動をしているなあ、と思っていると中学時代の回想が始まる。
かつて、水道の蛇口を盗んだ藤原悟が逮捕され、「水が、いっぱい出るのが嬉しかった」との動機を供述した事件をクラスメイトがクラスで発表するシーンになる。
その後、中学時代の夏月は、取り壊される予定の水場に行く。
その場にいた佐々木くんと、蛇口を破壊し、大量の水を浴びて喜び分かち合う。
すぐに分かるのだが、夏月と佐々木くんは水に対して性的な欲求を示す体質。
通常の男女の性的な交わりにはまるで無関心。
そのため、社会からは孤立している。
何となく、彼らには理解ができる。
私も普通の社会人生活はできない社会不適合者。
人に合わせる許容量が人より少ない実感があり、現実逃避的に小説を書き、何とか派遣で普通の仕事を少なく抑え、かろうじて生きながらえている。
私は、自分が納得できるロマンを求めなければ生きられない体質であり、友達はいない。
話が合わないし、友達とダラダラ過ごすくらいなら、小説の新人賞の受賞のために、少しでも近づく行動を取りたい。
小説を書いたり読んだり、映画を観たりなど。
とはいえ、夏月には理解できないぶっ飛んだ行動もあった。
佐々木くんが、普通の性的嗜好を持つ女の子を家に連れ込む瞬間を目撃する。
裏切りを感じた夏月は、佐々木の家のガラスを破壊して逃げるのだ。
さすがにやり過ぎじゃないだろうか。
自ら命を落とす行為を試みるならまだ分かる。
いくら何でも人に迷惑をかける行為は意味がわからない。
違和感のある箇所はそこくらい。
まず表現が良かった。
和解した夏月と佐々木くんが自分たちのことを「地球に留学している気分」と表現する。
私も留学経験があるのでよく分かる、
留学するとアウェイで戦ってる感があり、酷い孤独に苛まれる。
社会不適合も似た感覚ではある。
他にも佐々木くんは「(生きるために)手を組もう」と提案する言葉のチョイスもいい。
やっぱり、チームとなれる人物を作るのは良いと思う。
私も小説の執筆のために孤独に身を置くようにはしているが、それでもたまには人と交流したくなる。
絶え間ない孤独は精神を病む。
何より良かったのは、最後の夏月な痛快セリフ。
マイノリティを攻撃するマジョリティを地獄に突き落とす最高のラストシーンだった。
タイトルの正欲は性以外にも、上手く社会に馴染めないマイノリティを肯定する意味が含まれている。
地味なドラマだけど、救われた気持ちになった。
鑑賞してよかった。
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■ケイコ 目を澄ませて
正欲の作品情報
■監督:岸善幸
■出演者:稲垣吾郎
新垣結衣
磯村勇斗
佐藤寛太
東野絢香
山田真歩
宇野祥平
渡辺大知
徳永えり
岩瀬亮
坂東希
山本浩司
■Wikipedia:正欲
正欲を見れる配信サイト
U-NEXT:○(有料)
Hulu:○(有料)
Amazonプライムビデオ:○(有料)、原作はコチラ
Netflix:○(見放題)
※2024年5月現在