■評価：★★★☆☆3.5
「ポトラッチの面白さ」
【小説】元彼の遺言状のレビュー、批評、評価
小説の新人賞、第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した新川帆立による2021年1月8日刊行のミステリー小説。
【あらすじ】「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」。元彼の森川栄治が残した奇妙な遺言状に導かれ、弁護士の剣持麗子は「犯人選考会」に代理人として参加することになった。数百億円ともいわれる遺産の分け前を勝ち取るべく、麗子は自らの依頼人を犯人に仕立て上げようと奔走する。ところが、件の遺書が保管されていた金庫が盗まれ、さらには栄治の顧問弁護士が何者かによって殺害され……。（Amazon引用）
綾瀬はるか主演で月9でドラマ化もされたミステリードラマ。
本作を読もうと思ったきっかけは、本屋さんである有隣堂のYouTubeに出ていた本作の作者、新川帆立が語る『新人賞に受かる方法』が興味深かったから。
当該動画は下記。
新人賞は、新しい発想を持った作品(作者)を受賞させる目的が強い。
そのため、テレビドラマとかで良く見かけるような医療物、刑事物、といった既視感たっぷりの作品は内容が面白くても、受賞しないこともある。
新川帆立は新人賞を受賞するための対策として、以下の５点を意識した。
(厳密には、『このミステリーがすごい！大賞』というミステリー系の新人賞対策)
①キャラを立てる
②華やかにする
③魅力的な謎
④新しい素材・設定
⑤現代的なテーマ
詳細については、興味があれば動画を観てもらいたいのだが、この記事で語りたいのは５番のテーマについて。
『愛』とか『友情』は既にある名作で描かれているので、ここでも現代的かつ新しいテーマが必要。
そこで、本作『元彼の遺言状』ではポトラッチという聞き慣れない概念が登場する。
元々はアメリカの先住民が行っていた儀式で、贈与競争を意味する。
相手に贈り物をしたら、お返、相手はもっと高額な贈り物を用意する。
このように贈り物合戦で相手を潰す儀式がポトラッチ。
本作では、日本でもバレンタインやそのお返しも似た精神が宿る、と、本作で語られている。
私も職場の女子に、お菓子をもらったら必ずお返しをしていた。
お返し精神が根付いている日本人にはポトラッチは意外と刺さる概念。
私は現在、新しい作品のあらすじを考えており、それに伴い、斬新なテーマがなかなか思い浮かばなかったので、何かのヒントになればと思い、本作を読むに至った。
本作の感想に戻るが、確かに新しい要素が盛り沢山で面白かった。
そもそも設定が魅力的。
主人公はやり手の女弁護士。
命を落とした元彼が、『自分の命を奪った犯人に６０億の資産を渡す』の遺言状を残す。
主人公は依頼主を犯人に仕立て上げるため、奮闘する。
犯人ではない依頼主を、犯人に仕立てるという逆転の発想が面白い。
この設定を思いついただけでも、作者の勝利だと思えてしまう斬新さ。
ただ真犯人を探すだけの平凡なミステリーでは見られない、新しい道筋やアプローチから真犯人を追い求めていく。
こういった自分の発想になかった視点を見せてくれるのは刺激になるし、単純に、読者としてワクワク感を与えてくれる。
後、主人公の弁護士が金に目がない性格の悪いキャラ性も良かった。
世の中にある作品の主人公は良い人キャラが多すぎるので、新鮮さを感じた。
それに性格の悪いキャラは、モニター越しや紙越しで眺めている分には楽しい。
（リアルでは絶対に友達になりたくない。コロチキのナダルとか）
もちろん、期待していたテーマのポトラッチも面白い。
正直、話の本筋に無理やり組み込んだようなテーマであり、物語の中で上手く機能しているとは思えなかった。
でもポトラッチの存在が興味深いので興味深く読み進められた。
内容は思ったより難しかった。
コメディ調のシナリオで、文体自体の読みやすさはある。
だが物語が財産相続という法律ベースで展開されるされていくので、なかなかのとっつきにくさはある。
とはいえ、知識欲は満たされるので難易度としてはちょうど良かった。
結末から得られるカタルシスは薄めだったので、評価は控えめ。
本作はドラマのほうが見やすくチューニングされているかもしれない。
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