映画のくれた時間

約1500本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます(たまにアニメ・ドラマ・小説も)。面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

小説『第六ポンプ』ネタバレなしの感想。出生率の低下と痴呆化が進行した異形のニューヨークを描く

■評価:★★★☆☆3

 

「欲の果てに行き詰まった人類の絶望」



【小説】第六ポンプのレビュー、批評、評価

 

『ねじまき少女』のパオロ・バチガルピによる2012年刊行のSF短編集。

 

【あらすじ】出生率の低下と痴呆化が進行した異形のニューヨークを下水ポンプ施設の職員の視点から描いたローカス賞受賞の表題作など、全10篇を収録した『ねじまき少女』著者の第一短篇集。(Amazon引用)

 


私がSF小説にハマり出した頃、『おすすめSF小説』のキーワードでGoogle検索して、出てきた古本屋サイトで本作が紹介されていた。

作者のパオロ・バチガルピは全く知らなかったのだが、2011年5月20日に刊行された長編『ねじまき少女』は、SF小説ノーベル賞とも言える格式高いヒューゴー賞を受賞している。

『第六ポンプ』は短編集ではあるが、実力ある作家への期待値を胸に膨らませて読み始めた。

オープニングを飾るのは『ポケットのなかの法(ダルマ)』。
近未来の中国が舞台。
有機物の育つ建築物が軒を連ねている町で、主人公の少年はホームレスでその日暮らしをしている。
ディストピアSF感満載の空気感がたまらない。
そもそも建物がコンクリートとかではなく、生きてるという設定が斬新で心を掴まれる。
SF初心者の私からすると、SFといえば文明が進化した世界観のイメージが強い。
有機物建造物とは、また違ったベクトルのアプローチなので期待を煽られる。

しかも主人公は色々あって、青色のキューブ状の物体を白い手袋をした人間に渡してほしいと、謎の人物からお使いを受ける。
このキューブにもユニークな仕掛けが施されていて楽しめた。

電子書籍で読んだので不確かであるが、文庫本だと40ページ程度の短編で、すぐに読み終わってしまう。
魅力的な世界観なので、長編で堪能したかった。

2つ目の『フルーテッド・ガールズ』は、フルート化した少女達の話。
フルート化って何?
フルートって楽器の?

などとクエスチョンマークを頭に増殖させながら読み進める。
フルートという可憐な言葉とは対照的な鬼畜な展開が待っていて驚かされる。
やっぱりフルート化というイカれた設定が面白い。
一体どんな人生を歩んだら、ここまで頭を柔らくした発想が出来るのか。

この後もぶっ飛んだ世界観の話が続いていく。
個人的には、読みづらい話もいくつかあった。
全体的に、世界観を特徴づける造語などの具体名詞が序盤から出てくるのだが、まるで説明されない。
物語がある程度進行すると、会話などの流れで、言葉の意味が分かるようになる。

説明臭くないので良いのだが、地味な内容のストーリーだと、造語の内容がイメージできないので、今、どういった物語が展開されているのかが分りづらかったりもする。
特徴のある設定の物語であれば造語の意味が不明でも、大枠の流れは掴みやすいので助かるのだが。

そのため、面白がれなかった話が2つほどあった。

最後に、個人的に一番印象に残っているのは『ポップ隊』。
科学技術によって永遠の若さを手に入れた人類。
法律で若返り治療を受ける必要があるが、代償として女性は受胎能力を失われる。
そんな極端な抑圧世界で、主人公は違法で産まれた子供を処分するポップ隊に所属している。

本編で印象的だったのが、語られる子供の存在についてのテーマが新しかった。
考えたことのない視点だったので、ついつい深く思考させられた。
結果としては納得できたし、子供を作りたい理由としては一理ある。
ユニークな視点で語られるテーマの作品に遭遇すると、満足度は高くなる。
新しい発見として、知的好奇心を著しく満たしてくれるため。

短編集で感情の揺れは控えめだったので、評価も控えめにしたが、斬新な設定を求めている人には楽しめる作品。

 


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■三体

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第六ポンプの作品情報

■著者:パオロ・バチガルピ
Wikipediaパオロ・バチガルピ
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