映画のくれた時間

約1500本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます(たまにアニメ・ドラマ・小説も)。面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

小説『都市と都市』ネタバレなしの感想。特異な法の存在するふたつの都市国家で発生した事件を追う刑事を描く

■評価:★★★☆☆3.5 

 

「認識してはいけない」



【小説】都市と都市のレビュー、批評、評価

 

2010年に、SFやファンタジーの作品に贈られる賞「ヒューゴー賞 長編小説部門」を受賞した2011年刊行のSF小説。

 

ふたつの都市国家〈ベジェル〉と〈ウル・コーマ〉は、欧州において地理的にほぼ同じ位置を占めるモザイク状に組み合わさった特殊な領土を有していた。ベジェル警察のティアドール・ボルル警部補は、二国間で起こった不可解な殺人事件を追ううちに、封印された歴史に足を踏み入れていく……。

 

ゲームデザイナーの小島秀夫の推薦図書(映画・ドラマ等も含む)が紹介されている『創作する遺伝子 僕が愛したMEMEたち』内でおすすめされていた一冊。

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設定があまりに面白そうすぎて、すぐに本書を購入し、読み始めた。
お互いの存在を『認識してはいけない』ふたつの都市国家“ベジェル”と“ウル・コーマ”を舞台とする警察小説。
もし認識してしまうと、秘密警察のような謎の組織『ブリーチ』の連中に確保されてしまう。
そのため、ベジェルに住む主人公は、冒頭から、ウル・コーマ人を見ると、見て見ぬ振りをするのだ。
特異な環境下に、私は異様な興味を持った。

私としては、余計に相手の国民に、興味が湧いたりして認識してしまいそうだなあ、といろいろと妄想をしてしまった。
あるいは、認識してはいけない国の女性に一目惚れしたらどうしようとか。
むしろ自国の女性よりも強い興味を抱いてしまいそう。
親に「ダメ」と禁止されることをやりたくなってしまう心理のように、人は制限を掛けられると破りたくなるものである。

さらに遺体となった女性を調べていくうちに判明する新事実が非常に興味深い。
女性はいったいどこからやってきて、何をしていた人物なのか。
女性の持つ情報があまりに魅力的だったので、読み進めるにつれて、ページを捲る手が加速する。
まるで宮崎駿の『天空の城ラピュタ』を彷彿とさせる冒険欲を駆り立てる展開。
ワクワクが止まらなかった。

個人的には、中盤以降から失速気味な印象を受けた。
主人公は中盤以降にとある組織の連中と接触する。
今まで非常に実際的に描かれていた存在なのだが、このとある組織の存在がどこか抽象的というか、ふわふわしたイメージとして描かれている。
実在する組織でありキャラなので、もっと実際的に生々しく描いて欲しい。
何となく、どこか神々しいような幻想的な雰囲気で描かれていて、この組織に関心を持てなかった。

中盤くらいまで広がった風呂敷が、クライマックスに向かうにつれてどんどん尻つぼみになっていく展開も残念だった。
私と同じような感想を持つ人も多そう。
面白い具合に、クライマックスに向けてスケール感をでかくできないのなら、余計な風呂敷は広げないでほしい。
本作の評価をそこまで高くしていない理由である。
正直、期待外れで、読後は不完全燃焼感が否めない。

さらなる不満点として、『認識してはいけない』をもっと具体化してもいいと思う。
例えば、他国の人間と目が合って5秒経過したら『ブリーチ』が出現する、など。
SF小説なんだし、首輪などを付けて、ルールを厳格化したら、エンタメとしてさらに面白くなりそう。
本作は、ただ『認識してはいけない』だけの曖昧なルールなのが気になった。
他国民は目が合いそうになったら、すぐに目を逸らすなどの描写がある。
何だか滑稽である。

あと、『ブリーチ』がどれだけ恐い組織なのかの提示も、序盤にして欲しい。
『認識してはいけない』のルールの遵守のスリリングさに欠けるから。

気になる箇所も多い作品だが、個人的には嫌いじゃない。
特に序盤から中盤にかけてもワクワク感は最近見た映画、読んだ小説の中ではトップクラスだった。

 

■登場人物一覧
ティアドール・ボルル:主人公、刑事
フラナ・デタール=ビエラ・マール:遺体の女性
シュクマン:監察医
ハムズィニク:シュクマンの助手
ナウスティン:刑事
リスヴェト・コルヴィ:若い女性巡査
ラミラ・ヤスゼク:尋問のうまい女刑事
ミキャエル・フルシェ:ヴァンの持ち主
リスカ:女性の経済史学者
イザベル・ナンシー:マハリアが師事していた考古学の教授
パール・ドローディン:背が高い痩せた30代後半の男。ユニフ(統一主義)
シューラ・カトリーニャ:無任所大臣、中年女性
ミケル・ブーリッチ:最大野党・社会民主党
ヨルイ・シエドル:極右グループ愛国議員のリーダー
ガヤルディック:首相
ヤヴィド・ニイセム:首相の元で文化相と委員会の議会を務める
ジェイムズ・サッカー:28、9くらいのアメリカ大使館員
ハルカド・ゴッシュ:〈真のべジェル市民〉の弁護士
クシム・ダット:上級刑事
イカム・ツーエ:警備員
ダハール・ジャリス:ユニフ(統一主義派)の青年
ヤーリャ:ダットの恋人

 


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砂の女

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■サカサマのパテマ

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都市と都市の作品情報

■著者:チャイナ・ミエヴィル
Wikipediaチャイナ・ミエヴィル
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