■評価：★★★☆☆3.5
「作家の葛藤の底なしっぷり」
【映画】零落のレビュー、批評、評価
俳優の竹中直人が監督した2023年3月17日公開のドラマ映画。
原作は『おやすみプンプン』や『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』の浅野いにおによる同名タイトル漫画。
【あらすじ】８年間の連載が終了した漫画家・深澤薫は、自堕落で鬱屈した空虚な毎日を過ごしていた。SNSには読者からの辛辣な酷評、売れ線狙いの担当編集者とも考え方が食い違い、アシスタントからは身に覚えのないパワハラを指摘される。多忙な漫画編集者の妻ともすれ違い、離婚の危機。世知辛い世間の煩わしさから逃げるように漂流する深澤は、ある日“猫のような目をした”風俗嬢・ちふゆと出会う。堕落への片道切符を手にした深澤は、人生の岐路に立つ……。（公式ＨＰ引用）
本作は作者である浅野いにおの実体験を元に描かれたフィクションとのこと。
恐らく作品のストーリーごとではなく、作中で描かれる断片的なエピソードのみ、実体験を参考していると思われる。
確かに設定は生々しさがある。
一時期はヒットした漫画『さよならサンセット』は売上が落ち、そのまま連載終了となった深澤は、漫画に希望を持てなくなる。
漫画編集者の妻との関係も溝が深まる一方で、どん底を突き進んでいた。
そんな葛藤まみれの深澤の再生の物語となる。
恐らく浅野いにおの長期連載の人気漫画『おやすみプンプン』以降の自身の葛藤を参考に制作されたのかと思われる。
『おやすみプンプン』は現実劇の中で小学生の落書きのように描かれたヒヨコに似たキャラ、プンプンが主人公。
斬新すぎる世界観は当時、漫画好きの間では有名で、私も途中まで読んだ。
内容が哲学的な小難しさがあり、当時は最終巻まで追わなかった。
話を戻すが、『零落』は個人的には好みだった。
男ウケするような女性キャラが、ダメな男を引っ張ってくれるので男の方がハマる人は多そう。
漫画が書けなくなった深澤は、何となく夜の店に行くと猫目の女性ちふゆと出会う。
ちふゆは深いことは尋ねず、深澤のすべてを受け入れる。
夜の店の仕事の範疇に含まれているためなのかもしれない。
たが、深澤のすべてを理解しているかのような達観さかあり、深澤は彼女に魅了されていく。
男の私もメンタルが落ち込んでいるとき、こんな女性と出会ったら簡単にハマるんだろうなと、思った。
本当に男は情けないし弱い生き物である。
ミステリアスな女性、ちふゆを演じた趣里がとにかく魅力的。
外で会うシーンがあるのたが、店とはまるで異なるカジュアルな装いにギャップがあって、とてつもなく可愛い。
素を見せてくれてる感があって、本作で一番好きなシーンかもしれない。
また深澤の奥さんも印象的。
奥さんは仕事人間で、家でも、常にバタバタしてる。
でも奥さんも奥さんなりに深澤を見ているし、漫画家ならではの繊細さも理解していて気遣っている。
何なら、深澤の人間性（漫画）を全面的に肯定する。
奥さんが生々しくリアルに描かれているし、本当の意味で良い人。
そのため、まともにコミュニーケーションの取れない深澤が一番の悪人として浮かび上がる。
心底、嫌なキャラである。
そのため、最後の方は奥さんの幸せを願っている自分がいた。
唯一苦手だったのが、村上春樹に影響されたであろう特徴的なセリフ回しが多くて鼻についた。
現実的にはありえないセリフなので、直視するのが照れ臭くてしんどい。
とはいえ、ストーリーは好みだし、キャラも魅力的なので良い作品だった。
私の予想だが、『おやすみプンプン』が人気を博したときに頭の中に渦巻き、肥大化していった浅野いにおのネガティブな妄想が本作のシナリオの元になっていると思われる。
『おやすみプンプン』自体、人気が低迷したという話は聞かないので。
結果的には『おやすみプンプン』以降の2022年に完結した
『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション（以下デデデデ）』は、前回、記事にした、『幼年期の終り』をモチーフにしたと思われる設定で、アニメ化も決まっている人気作。
だから『零落』で描かれたような葛藤からは解放されたのではないだろうか。
もしくは、『デデデデ』のときも、人気低迷の不安に苛まれたのかもしれない。
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■砂の女
零落の作品情報
■監督：竹中直人
■出演者：斎藤工
趣里
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■Wikipedia：零落（ネタバレ）
零落を見れる配信サイト
U-NEXT：○(有料)
Hulu：－
Amazonプライムビデオ：○(有料)、○(Blu-ray)、原作はコチラ
Netflix：－
※2024年5月現在
