映画のくれた時間

約1500本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます(たまにアニメ・ドラマ・小説も)。面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

漫画『タコピーの原罪』ネタバレなしの感想。ハッピー星人のタコピーがいじめられっ子の女児を幸せにするため奮闘する

■評価:★★★★☆4.5 

 

「子供の生き苦しさ」



【漫画】タコピーの原罪のレビュー、批評、評価

 

ウェブコミック配信サイト『少年ジャンプ+』(集英社)2021年12月10日より2022年3月25日まで連載された全2巻の短編のファンタジー漫画。


地球にハッピーを広めるため降り立ったハッピー星人タコピーは、笑わない少女しずかちゃんと出会う。どうやらその背景には学校のお友達とおうちの事情が関係しているようで…。無垢なタコピーが知るざらついた現実とは!?


本作が連載されていた当時は、ツイッターなどのSNS上で異様に盛り上がっていた。
Wikipediaにも、『少年ジャンプ+』のエポックメイキングとなった作品、と紹介されている。

エポックメイキングとは、画期的、革新的の意味を持つ言葉。
例えば、『●●以前、●●以後』といった感じで紹介されるような、その分野・ジャンル・界隈で大きな影響をもたらしたことを示す。

とにかく世間の評判や熱量が凄かったので、大いなる期待を持って、本作を手に取った。
読了後は、しばらく余韻に浸る作品だった。
事前の期待を大幅に超えてくる素晴らしい内容でビックリした。

まず、キャラクターが異様が立っている。
主人公であるタコピーを拾ったのは、小学四年生の久世しずかという名前の女の子。
身なりの汚れが目立つ彼女は、いじめられっ子。
いじめられる内容があまりにハードすぎる。
いじめっこのまりなちゃんに、毎日、下敷きを折られる。
ランドセルには、「バカ」やら何やらと落書き三昧。
クラス全員から嫌われている印象だし、先生しずかちゃんに助け船を出す雰囲気もない。
しかもしずかちゃんは、家族の気配がない。
水商売をしている母はいつも家を空けていて、日常的に一人ぼっち。
唯一の友達はペットのわんこのチャッピーだけ。
そのため、しずかちゃんは小学四年生ながらも鬱状態のような様相である。

また、タコピーとのテンションのギャップが面白い。
タコピーは脳天気でバカで突き抜けるほどにポジティブ。
出会った人を幸せにするために地球にやってきたタコピーは、しずかちゃんにいろんな道具を渡そうとする。
「これはハッピー道具の一つ、パタパタつばさ。空を飛べる道具っピ!」としずかちゃんを喜んで貰おうとする。
だが、しずかちゃんは鬱状態なので、「いらない」ってな感じで拒絶する。

このテンションの落差のギャップが新鮮で面白い。
普通だったら、「マジで?使いたい」となるだろう。
だが、あまりに壮絶な環境下を這いずるように生きるしずかちゃんは、遊んでる余裕がない。

素晴らしいと思ったのが、タコピーは華麗なる勘違いをするのだ。
例えば、パタパタつばさを渡そうとして断られると、「もしかしたらしずかちゃんは空を飛んだことがあるかもしれないっピ!」とポジティブに曲解をする。

私は小説を書いている身だが、創作をする上で、ネガティブなキャラはあまり好まれない。
キャラに能動性が欠け、物語が動かない。
後ろ向きなせいで、どう足掻いても良い方向に展開しない。
何より、読者が応援したい気持ちになれない。
読者がキャラを好きになれないと、作品を最後まで読もうと思えない。
だが、タコピーのやり過ぎなくらいの華麗なる勘違いが、創作において御法度とされる消極的なキャラ性を相殺しているように思える。

各キャラクターの裏の顔が明かされることで、迎える衝撃展開の連続も素晴らしい。
例えば、いじめっこのまりなちゃんは、冒頭の印象は「とんでもない悪人」である。
いつ、しずかちゃんは自ら命を絶ってもおかしくないほどに追い込むのだから。

だが、物語が先に進むと、まりなちゃんに視点が変わる。
描かれる内容は、まりなちゃんなりの葛藤である。
しずかちゃんをいじめることを、読者が納得できるほどの深い闇を抱えているのだ。

このようにキャラクターが多面的にみっちり描かれているのは素晴らしかった。
ドラマの描かれ方が少年漫画の枠を完全に越えている。

展開も斜め上の連続だし、まるで予想もできないラストを迎えてくれる。
今後、何度も読み返すことになる作品。
今、書いている自分の創作物と比べると、天と地の差と感じさせられ、非常に悔しい思いをした。

チェンソーマン』といい、今のジャンプ作家は凄い。

 

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チェンソーマン

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タコピーの原罪の作品情報

■著者:タイザン5
Wikipediaタコピーの原罪(ネタバレあり)
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