映画『Winny』ネタバレなしの感想。権力やメディアと戦った男たちの真実の物語

■評価：★★★☆☆3.5

「出る杭は打たれる」

【映画】Winnyのレビュー、批評、評価

実在したプログラマー金子勇によって開発されたP2P技術を用いたファイル共有ソフト『Winny』を巡るWinny事件を描く史実に基づくドラマ映画。
2023年3月10日公開。

【あらすじ】2004年、革新的なファイル共有ソフト「Winny」が開発され、利用者による悪用が大きな社会問題になる。そして、逮捕されることになった技術開発者・金子と弁護士が、無罪を勝ち取るまでの7年間の軌跡を追う。

2023年現在、40才の私にとって、本作の舞台となる2003年は当時20歳。

インターネットがダイヤルアップ式から高速通信かつ定額で提供されるブロードバンド式が主流になり、パソコンが爆発的に普及しだした頃の話。

私も当時はパソコンに夢中で、Winnyはパソコンのアンダーグランド界隈で注目されていたのもあって、触った経験がある。

そのため、本作は懐かしさと同時にWinnyを触ったことのある当事者として鑑賞することとなった。
この当事者という感覚は、映画などの物語を楽しむにあたって稀な経験なので、新鮮だった。
同じ悩みを持つキャラに感情移入することは多々あるが、実際に起きた事件の当事者という感覚は初めて。

本作のストーリーはプログラムオタクの金子勇が画期的なファイル共有ソフト『Winny』を作り、Winny上で映画や音楽、漫画といった著作物が大量にファイル共有され、誰でもダウンロード出来る状況になり、金子氏が著作権法違反の幇助の、疑いとして逮捕される。
メインは裁判での争いが描かれる。

幇助という聞き慣れない言葉は、手助けの意味を指す。

またファイル共有ソフトは、インターネット上で異なるパソコン同士でファイルを共有できるアプリケーションを、指す。
合法ファイルなら良いのだが、著作物の音楽ファイルやゲームファイル、映画ファイル等が交換されまくったので、当時は問題視されていた。

物語についてだが、印象的だったのは、金子氏の孫悟空のような純粋さ。
金子氏はもはやパソコンのプログラミングにしか興味がない。
プログラミングというのはウェブサイトやウェブアプリ、今ならスマホのアプリなどを作るため技術を意味する。

金子氏の家のベッドはまるで病院な足の辺りにテーブルが設置されてきるリクライニング式。
朝から晩までお菓子をつまみながら、プログラミングをやり、眠くなったら寝る、という職人のような暮らしをしている。
そのため、プログラミング以外は無知。

例えば警察に捕まり、取り調べ中に「この見本と同じ内容に、書き写してくれ」と紙とペンを渡される。
見本には『私は著作物を蔓延させるため、Winnyを作りました』と書かれている。
いかにも先に訪れる困難が予想される穏やかではない文言。
さすがの金子氏も「これも書いて大丈夫なんですか」と怪訝を示す。
刑事は「後で修正できるかは、早く書いて」と促す。
すると、金子氏はそれ以上、疑いを示さず書き進めてしまう。

人の邪悪さをまるで考えないし、もはや無関心。
ただ自分はプログラミングができたら良い。
天才性を醸し出す稀有な人間性。

また印象的だったのは、金子氏は「プログラミングは自分を表現するもの」と語っていた。

以前、2ちゃんねる創始者のひろゆきが、金子氏ついて語っていた。
「Winnyの構造はアートを彷彿させる」と。
私は詳しくないのだが、プログラミングの組み方に創造性があり、美しさをも感じさせるのだとか。

物語作りもそうだけど、こだわりが強くなればなるほど、作家性が帯びる。
Winnyも金子氏の作家性が強く反映された唯一無二のソフトなのだろう。

本作は金子氏が既に故人というのもあるためか、金子氏を肯定する内容となってる。
金子氏は著作物を蔓延させるつもりはないと豪語するが、流石に著作物が共有される未来は想像したはず。

当時はWinMXという、著作物を共有するソフトが存在してきて、WinnyはWinMXの欠点を補うような使いやすい設計のソフトだから。

とはいえ、金子氏のプログラマーとしての才能を奪うような社会はおかしい。
才能ある金子氏の能力が、最大限にかつ適切に活躍する場がある社会のほうが、人類にとっては有益である。

本作は、そこまで起伏に富んだエンタメではないが、金子氏の純粋さに触れられた良い作品だった。

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■クイーンズ・ギャンビット

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