映画のくれた時間

約1500本の映画を鑑賞した小説家志望の男が、ネタバレなしで映画のレビューや解説を書いてます(たまにアニメ・ドラマ・小説も)。面白いおすすめ映画を探している人向けのブログ。

映画『市子』ネタバレなしの感想。プロポーズを受けた恋人が失踪する

■評価:★★★☆☆3.5 

 

「地獄とは悪の不在なり」

【映画】市子のレビュー、批評、評価

 

戯曲『川辺市⼦のために』を原作とする2023年12月8日公開のドラマ映画

 

【あらすじ】恋人の長谷川からプロポーズを受けた次の日、突然行方をくらました市子。長谷川は市子の居場所を探す中で、彼女の人生にまつわるさまざまな事実を知ることとなる。

 

アニメ、映画評論を得意とする評論家、岡田斗司夫YouTubeで本作を勧めていたので鑑賞した。

逃げ出したい。ネガティブな感情に耐えられずに何もかもを捨てて今の環境を脱したい。と、悲観的になった経験は誰にでもあるだろう。
私も中学2年生の頃はイジメに遭っていたので、当時は、何度も学校、何なら世界そのものから逃げたいと心底願っていた。
親にも隠していたので、誰にも相談できず、当時の孤独体験は今思い返しても強烈だった。
学校が休みの日は、いじめっ子から遊びの誘いの電話が家に掛かってくる。
だから逃げるために外に出る。
友達が少なかった私には行く宛もないし、腹は減るので家に帰るしかない。
家に帰っても味方はいない。
ただの絶望である。

話を映画に戻すが、主人公の市子は同棲していた恋人の男にプロポーズされた翌日、失踪する。
男はもう一度、最愛の市子に会うため、彼女の情報収集をする。
すると、思いがけない市子の壮絶な過去が浮かび上がる。

失踪を題材とした物語は、すでに多くの良い作品が存在しているので、個人的にはうんざり気味。
例えば、貧乏一家の父が突如、失踪し、中学生の一人娘が捜索する邦画の『さがす』。
順風満帆な夫婦生活を送っていたと思ったら、突如、妻が姿を消した『ゴーン・ガール』。
他にも『ドラゴン・タトゥーの女』、宮部みゆきの名作小説『火車』など。

そのため、本作のあらすじを読んで『今更、失踪ものか』と嘆いた。
とはいえ、個人的に信頼している岡田斗司夫のおすすめ作品なので、何かしらの鑑賞価値があるのだろうと思って負の感情を呑み込んだ。

タイトルにもなるだけあって、市子のキャラが魅力的だった。
子供の頃から家が貧乏の市子は、小学校で金持ちの同級生と仲良くなる。
友達の家でお菓子を盗んだり、友達のプレゼントのお返しにデパートでたまごっちを盗んであげたりする。
早くも貧困によってずれた倫理観が育まれ、犯罪に手を染めることが常習化している。
観客としてはただただ可哀想、と思わさせられる。
恐らくまともな中流階級であれば、彼女は真っ当な感性を持って生きれただろうから。

そんな高校になると市子は、持ち前のミステリアスさを駆使して同級生の男たちを虜にする。

危なっかしい小悪魔感は、男からすると魅力的に映る。
市子を杉咲花が上手く演じていて、説得力があるキャラとなっている。

市子の隠された過去はとんでもなく壮絶。
ネタバレになるので詳細は伏せるが、思っていたよりもキツイ人生を強いられている。

観ていて思ったのが、本作に真の悪人は存在しない。
確かに、市子は盗みのような犯罪も犯したし、市子に酷いことをする人間も出てくる。
でも、すべては運命が彼女らを狂わせている。
誰も悪くない。
だから観ていて胸が苦しくなる。
悪人さえいてくれたら、市子は憎しみを持てるから楽になったかもしれない。
観客もカタルシスを覚えただろう。

繰り返しの視聴はないタイプの良作。
意表をつく展開は興味深いけど、何度も擦られた失踪設定に鮮度は皆無。

 

社会問題をテーマとするおすすめはコチラ。

■母という呪縛 娘という牢獄

movies-ocean.hatenadiary.com

■由宇子の天秤

movies-ocean.hatenadiary.com

 

市子の作品情報

■監督:戸田彬弘
■出演者:杉咲花
若葉竜也
森永悠希
倉悠貴
中田青渚
石川瑠華
大浦千佳
渡辺大
宇野祥平
中村ゆり
Wikipedia市子

 

市子を見れる配信サイト

U-NEXT:-
Hulu:○(有料)
Amazonプライムビデオ:○(見放題)
Netflix:-
※2024年6月現在